79 .兵士達のトレーニング⑥
「はじめ!」
隊長の合図とともに、先に動いたのはメガロだった。
散々馬鹿にしやがって、世間知らずのお嬢サマが。
少しくらい、驚かせてやる!!
内心ずっと腹わたが煮えくり返っていたメガロは大きく木刀を振り上げると、迷わずリリーに振り下ろした。
「あぁっ…!」
見学の兵士達の息を飲む声がし、目をつぶる者もいた。
ガシュッ!!
リリーが避けたので、メガロの木刀は地面に食い込んだ。
さすがにビクともしない頑丈な木刀だが、
トン
避けたリリーはすぐにジャンプし、地面に刺さっていたメガロの木刀の刀身に飛び乗った。
そして、グッッ!!と深くしゃがみこみ、踏み込んだかと思うと、しなる木の反動を使ってパンッと空高くに跳ね上がった。
木刀が更に地面にめり込んだことで若干焦ったメガロが何とか引き抜こうとしている上空で、リリーは直滑降をし始めていた。
落下しながら大きく振りかぶり、メガロの後ろ首に向かって、思いっきり木刀を振り下ろした。
バシィィーーーーーーン!!!
「…づぁ……!!!?」
予想外の攻撃と痛みに驚き、思わず左手で首の後ろを押える。
前かがみにふらつきながら、後ろに降り立ったリリーを振り返ろうとし、地面から引き抜いた木刀を握り直す。
だがリリーはもう後ろにはいない。
着地したままシュっと回り込み、メガロの前、真下に姿勢を低くして入っていた。
片手で木刀を逆手に握り、片手は手掌を木刀の柄頭にあたる部分に当てて、振り返りつつあるメガロの顎下に向かって、真下から一気に突き上げた。
「ガァッ…… 」
リリーの力では致命傷にはならないが、かなり痛いのは間違いない。
この部分は筋肉が少なく、鍛えることができないのだ。
立て続けにダメージを浴びた痛みと、大勢の前で恥をかかされたことで、メガロは完全に怒っていた。
「ちょっと痛い目を見せようぐらいに思っていたが、もう許さん」
木刀を振り上げると、ビュンビュン風を切ってリリーに切りかかってきた。
真上から真下、右上から左下、左上から右下、真横…
縦横無尽に振り下ろされる狂剣は、、
しかし一度もリリーに当たらない。
リリーはメガロの動きを読み、メガロの木刀が降りてくる度にすんでの所で避けながら、その手首を木刀で払い続けていた。
突く、叩く、払う!!
パシッバシッバシッ!!
メガロは振り下ろすたびになぜか手が徐々に痺れていて、木刀を握る感覚がブレてきた。
「ウッ…」
左手で右手首を押さえて呻く。
するとリリーがなぜかタタタタタタタタとメガロから離れた。
そしてそこから全力でメガロに向かって走り出した。
タタタタタタタタタタタタッ ザンッ!!
走りながらリリーは木刀を勢いよく地面に突き立てる。
木刀はよくしなり、反動でリリーの身体が持ち上がる。
握った手を軸にくるりと身体を回転させ、木刀を引き抜いて宙に浮かんだ。
いわゆる陸上競技の棒高跳びの要領だ。
まだ状況の飲み込めないメガロの上で木刀を振り上げ、右手に向かって力いっぱい振り下ろした。
パシーーーーン!!!
「ぐぁぁっ 」
ついにメガロは木刀を取り落とした。
すぐに拾おうとするが、手が言うことを聞かない。
痺れで指が動かず、機械のようにぎこちなく動くだけだ。
その木刀をリリーはサッと拾って持ち、マイ木刀を左手に持ち替えると、メガロの木刀で正面から脇腹、膝、首に向かって即時、斬り込んでいった。
バシッ!!
ビシッ!!
バシッ!!
リリーのマイ木刀より、一打一打の威力が強い。
メガロは木刀を失って防御の術を無くし、リリーに追い立てられ後ろに下がりながら、腕をクロスして防戦をする。
再びリリーが深く沈み込み、高く跳ね上がった。
急に打たれなくなったのを不思議に思ってそろりと腕を崩して前を見るが、そこにリリーはいない。
また上か!!
と思って見上げた時にはリリーはもう背中側に着地しており、メガロの木刀を低い位置で構えていた。
そして回転しながら腕をしならせて木刀を水平に振りきり、メガロの膝裏を強かに打ち付けた。
パァーーーーン!!!
空を仰いだ状態で強烈な膝カックンを受けたメガロは、見事にバランスを崩し、後ろに大きくふらついた。
その腹を、前に回り込んだリリーが上段蹴りで蹴り上げる。
「あっ と… と… 」
メガロの身体が後ろに倒れかけた。
リリーはダメ押しに左手の木刀を地面に突き刺してまた飛び上がり、身体を捻って後ろ足で思いっきり胸板を押しとばした。
ズダーーーーーーン
とうとう地面に落ち、メガロは背中を打ち付けた。
リリーはトスッとメガロの傍らに降り立って、メガロの喉元に木刀の切っ先を突きつけた。
メガロは目を開けたまま、信じられないという表情をしている。
だが、大の字で転がっているメガロは、誰が見ても敗者であった。




