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77.兵士達のトレーニング④

リリーは怒っていた。

多分、この世界に来て初めての怒りだった。



この世界は、前にいた世界より文明みたいなものは発展していない。

だから、今やっている馬鹿げたトレーニングがおかしなものだと分からないのは仕方がない。

仕方がない、と思うが、怒りが治まらないのだ。


このままでは、誰かが死んでしまうかもしれない。




砦の兵士は基本住み込みだが、非番の時は家に帰れると、ジェイバーから聞いていた。

兵士には15〜20歳くらいの若者がたくさんいた。

まだ、親御さんにとっては可愛い子供だと思う。

それが、こんな無茶なトレーニングで命を落とし、しかも多分それは"鍛錬が足りなかったからだ"と一蹴されて、悼むこともされないだろう雰囲気を、リリーは感じていた。



そうなる前に、止めなくては。



でも、11歳の可愛いだけの子どもの言うことなんて、ここでは誰(特に隊長)も聞いてくれない。



話を聞いても良いと思わせる必要があった。

それにはもう実力を認めさせるしかない。


コソトレ令嬢でいたいとか、この際言ってはいられない。



だから、普通なら公爵令嬢と雇われ兵士は試合なんか絶対了承されないが、敢えてかなり挑発し、勝負の舞台にひきずり出すことに成功した。



無茶なトレーニングをしなくても、世界一のボディビルダーじゃなくても、敵を倒すことはできる。



そのことを証明するために、リリーは初めて、全力を尽くすことを胸に誓っていた。









「リリーお嬢様、こちらからお好きな木刀をお選び下さい」



リリーがペルルに木刀を返した後、ロカ隊長が倉庫に案内してくれた。



兵士達の使っている木刀は、もちろん大量生産の既製品ではない。

皆、自分でその辺の森に入り、木の枝から切り出して削って作ったお手製木刀だ。

長さも太さも人それぞれらしい。

素振りや試合は、そのマイ木刀で行う。



リリーは自分の木刀がないので、皆が今まで作って使わなかったり使い古した木刀が積まれている倉庫から、適当な木刀を選ぶことになった。



木刀はそれこそ色んな種類があった。

長いの短いの、細いの太いの、白いの黒いの、柔らかいの硬いの。



リリーはひとつひとつ手にとって、振ってみたり地面に突き刺してみたりして、手応えを確かめた。



そして、


「こちらにします」



と、比較的細長い木刀を選んだ。



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