74.兵士達のトレーニング①
砦の兵士達の訓練は、腹筋背筋、腕立て伏せ、スクワット系の筋力トレーニングと、走り込みや川泳ぎなどの心肺機能トレーニング、素振りや剣技の実技練習という構成になっていた。
さすがは砦の屈強な兵士達だけあって、皆ボディビルダーみたいにムッキムキで、アシュトンレベルの体格の兵士はザラにいた。
むしろ、ジェイバーなんかは細い方に入りそうだ。
走り込みも、全力疾走くらいのスピードで、リリーが見えないくらい遠くまで走り、また帰ってきての往復を何度も行い、皆息を切らして汗だくになっていた。
リリーが驚いたのは、走り込みが終わったら、皆一斉に下着姿になり、川に飛び込んだことだ。
「えっ…!?」
あんな状態で冷え切った川に飛び込むなんて、正気とは思えない。
心臓から悲鳴が聞こえてくるようだ。
リリーの驚いた様子を見て、1番隊のロカ隊長が、
「熱くなった身体を冷やせて鍛錬にもなる、一石二鳥の鍛錬です!」
とむしろ得意げに説明してきた。
みれば、兵士達は川の流れに逆らって、皆一心に泳いでいる。
アシュトンも、先陣を切って泳いでいた。
いくら北の砦といっても、この辺りは雪までは積もっていない。
高い山や頂上には積もっているというレベルだ。
だが、その山の雪解け水が流れている川は、身を切るように冷たい。
戦闘の際はそういう状況になる可能性はあるかもしれないが、毎日の訓練でこんな無理を重ねるのは明らかに身体に悪い。
川のほとりに旗が立ててあり、そこを目印に川から上がることになっているようだ。
川から上がった兵士達は、着替えを兼ねて少しの休憩をはさみ、素振りの練習に移った。
「ロカ隊長様、この訓練内容は、あまりにも身体への負荷が大きすぎませんか…?」
リリーは兵士達の素振りを眺めながら、隊長に聞いてみた。
「ハッハッハ! リリーお嬢様は、初めて兵士のトレーニングをご覧になられたのですからね。
驚かれるのも無理はありません。
ですが、こういう過酷な鍛錬の積み重ねが、どんな敵にも負けない精神力と肉体を造るのですよ」
隊長は力こぶを作って見せ、機嫌が良さそうにそう言った。
「そ、そうなのですね…。兵士様方の大変さが、よく分かりましたわ…」
リリーは一回り以上は歳が上であろう隊長の気持ちを慮らねばと、一度飲み込んでから、
「確かに、時に身体の限界近くのトレーニングは、それを"乗り越えた”というその事実が自信となり、精神的な強さを得る、ということはあると聞いたことがあります。
ですが、
それと肉体の強さは比例しません」
隊長の瞳を真っ直ぐ見て、結局ストレートに、言った。
隊長は兵士達が実技練習(模擬試合)に移ったことを確認していた。
その顔に先程の笑みは無く、隊長は兵士達を見つめたまま目だけを動かし、リリーに向けた。




