73.探検隊②
「あら、アシュトン久しぶりですね」
リリーも挨拶を返せば、
「砦の奴らにはちゃぁんと、リリーお嬢様が一筋縄ではいかない、護衛に腕がいるご令嬢だとお伝えしてますよ」
アシュトンはニヤニヤしながら言った。
いや誰も、そんな捻くれた表現してもらう予定じゃなかった気がするんだけど…
「砦の皆が、ジェイバーやお嬢様と挨拶したいみたいなんです。一緒に来てくれませんか? あと、ついでに砦の中を案内して貰ったら良いんじゃないかな」
アシュトンに促されて重い身体を起こし、ノロノロと背中について行った。
砦の地下には捕虜を収容する牢獄があり、らせん階段を登って上の階に進む。
1階には食事用のホールがある。皆朝起きたら真っ先にこちらに集まるらしい。
食事用のホールの隣には礼拝堂があり、故郷に思いを馳せたり、怪我をした身体が治るよう祈ったりするようだ。
2階、3階へと上がると門塔、側塔に案内された。
これは、平たく言えば敵襲を1番先に気づくための場所だ。
この塔は少し出っ張っていて、その窓から景色を見下ろすのがジェイバーの役目で、オススメの景色だった。
「本当、綺麗ね」
眼下はゴツゴツした岩場で堀に囲まれているが、遠くまで見渡すと、カルトン共和国まで視界に入れることができる。
話には聞いていたが、アルプスのように雪を被ってトンガリした山々が、太陽を反射して光っているのがよく見える。
「夕暮れ時になると、空の夕焼けを山が映して、山がピンク色になるからすごく綺麗なんですよ」
山は通常雪に覆われ、もちろん白色である。
空の色を反射して、水色にも橙色にも染まる様子が大変綺麗なんだとジェイバーは言った。
今は昼過ぎなので、白銀色だ。
階段を降りて砦から出ると、アシュトンと共に、兵士が並んでいた。
「ディアマン公爵のリリーお嬢様、初めてお会いできまして大変嬉しく思います。
ここにいるのは、公爵に多大な御恩がある者ばかりです。
これからもディアマン公爵家領の安全と繁栄に邁進して参りますので、宜しくお願い致します!」
「宜しくお願い致します!!」
アシュトンの隣にいた隊長らしき人が挨拶を述べると、他の面々も一斉にお辞儀と挨拶を述べた。
「か、顔ちっちゃ!」
「やばい超カワイイ…」
「何か顔色が悪いな…守ってあげたくなる… 」
「とても暴れん坊には見えないけどなぁ… 」
アシュトンの事前情報から、リリーのことを公爵に似たゴツイ子なのかと想像していた砦の兵士は、良い意味で期待を裏切られたようだ。
「皆様、ご挨拶とお出迎え、ありがとうございます。
皆様がこうして日々守っていて下さっているから、領民は皆安心して日常を過ごせています。
本当にありがとうございます」
今度はリリーがお辞儀をした。
「リリーお嬢様、せっかく砦にいらしたんですから、今から兵士達の訓練を見学して頂くのはいかがでしょうか。
皆の志気も高まるでしょう」
リリーも、まだしばらく馬車に乗りたくなかったので、隊長さんの提案に乗ることにした。




