71.新しい課題
翌日、熱が下がったリリーは、まだ身体は少ししんどかったけれど、声が少し出るようになっていたので、稽古場に顔を出すことにした。
「リリー!!」
稽古場に着いたら、1番にヴィオラさんが気がついて飛んできた。
遅れて気づいたアズール先生も急いでやってくる。
「ごめんね、リリー。私、無理をさせ過ぎちゃったんだわ…」
「いや、僕が、付きっきりで見ずにリリーさんに任せてしまったから、量の加減ができずに喉を壊してしまったんだ。本当に申し訳ない」
リリーは大人びているがまだ11歳。子どもなのだ。
大人がちゃんと管理しなければいけなかったと、2人は大いに反省していた。
それはそれは、気の毒なくらいしょげ返っていた。
あ〜ぁ、ジェイバーにはこうならないよう、軽い様子で伝えるよう頼んだのに!
リリーはジェイバーをちらりと見上げた。
ジェイバーは、腕を組み、なぜかウンウンと2人の謝罪にうなずいている。
え??違うからね? 2人のせいじゃないよ?
「いいえ先生、ヴィオラさん。
私、帰った後に、毎日家でも練習してたのがやりすぎだったみたいです。こちらで習って教えて頂いた量くらいは、全然問題ないと思います。休憩も充分頂きましたし。」
慌ててリリーが訂正した。
その声を聞いて、
「まだ少し声が違うね。その様子だと、しばらく喉を休めた方が良い。
幸い、基礎トレーニングは終わっているし、唱歌の音程と歌詞は覚え終わっているね」
とアズール先生が言った。
「今また喉を使うと悪化して、本番にまで差し障ることになりかねない。音合わせは明後日だから、それまで今日・明日は歌うのは禁止だよ」
ガガーン
明日も!?
それはさすがにヤバくない??
リリーはにわかに焦りだしたが、先生は、
「大丈夫、歌はイメージだけでもだいぶ上達できるんだよ。
君はまだ、この歌に気持ちを乗せられていないね?」
と言った。
「今日明日で、体調をみながらこの国の綺麗なもの、素敵なもの、景色や自然に触れておいで。
それらを慈しむ気持ちを歌に乗せられたら、技術だけ磨くよりもっと深い良い歌になると思うよ」
確かに、リリーは常時公爵邸にいる引きこもり令嬢だから、この国の山も川も海も知らない。
"色の恵みに感謝”という唱歌のコンセプトが、いまひとつ掴みきれていないのだ。
先生の言うように、表現豊かで深みのある歌唱をするためには、歌詞に感情を乗せなけばならない。
この曲を理解しなければ、感情なんて乗せようがないのだ。
「了解しました。ちょっと、探検に出ることにします!」
リリーは先生のアドバイスに従って歌の練習を休み、曲の理解に取り組むことにした。




