49.トレーニングの成果
トレーニングの方ではあれから1ヶ月、ストレッチは勿論のこと、相変わらず左手で食事をとり、目を閉じたままボールを操る練習、マリーにお手玉(みたいなもの:自作)を投げてもらい、ひたすらレイピアで突き刺す練習、マリーとのチャンバラ実践など、秘密の体育館でバリバリ邁進している。
お茶会では最後に酸欠になったのが情けなかったので、体幹トレーニングを追加した。
●クロスクランチ(仰向けに寝て頭の後ろに手を組み、両足を伸ばした状態から頭を上げて身体を起こし、片膝をぐいっと曲げて対側の肘に膝をつける、を左右足交互にする運動)
●サイドブリッジ(横向きに寝て、下側の手と足で床をつっぱる。腰も浮かせて身体が一直線になるように保つ)
●V字バランス(座った姿勢で両足を伸ばしたまま持ち上げ、その姿勢をキープする)
息を止めてはいけないが、油断をすると止めてしまうので、腹式呼吸をうまく使って頑張った。
ジャンプ力を上げるための足の筋トレや、倒立のための腕立て伏せも欠かさない。
体育館の秘密の特訓道場は、建前上はウォークインクローゼットになっているため、ドレスをかけるハンガーラックがある。
これがたまたまかなり丈夫そうなので素材だったので、鉄棒代わりに回転技の練習もできていた。
鉄棒を握って前回り、逆上がり、大車輪。
女子の新体操に鉄棒はないが、上肢と体幹トレーニングに丁度良かった。
そうして、左手でも右手と同じスピードで食べられるようになり、目を閉じてボールを投げても取り落とさなくなり、サイドブリッジのまま歌が歌えるようになった頃、模擬剣でのチャンバラではマリーに負けないようになった。
「お嬢様、、いえ、もうお嬢様じゃないです…」
ヘトヘトになって座り込むマリーを見下ろしながら、鍛錬の成果を噛みしめる。
この、超えられなかった壁を超える時の高揚感がたまらないわー!!
ひとりでギュッと両手を握りしめ、手応えを反芻した。
もう剣は自分の一部のように感じ、手のように使うことができる。
もし目を閉じて剣を投げても、ちゃんとグリップを握ることができる。
動く的も正確に突くことができるし、相手の剣をはたき落とす力もついた。
逆に、相手から剣をはたき落とされないよう、身体を低くしてかわしたり、転がったり高く飛んで目をくらませたりできるようになった。
マリーといつも使う模擬剣は、木製で男性用だから重いけど、リリーのレイピア(お兄様謹製)は軽いからもっと動きやすいはずだ。
そろそろ、自分の身は自分で守れるようになったのではないかしら。
街に気軽に買い物に行ける日も近いわ…!
ほくほくとしながら体育館から本邸に戻る途中、ジェイバーが自主鍛錬で素振りをしている姿を見掛けた。
声をかけようかと思った所で、別の知らない男の人がジェイバーに話し掛けた。
「よぅ、久しぶりだな、ジェイバー」
男は親しげに手を上げてニカッと笑い、ジェイバーに近づいていった。




