42.初めてのお茶会②
コツ…
ジェイバーに手を引いてもらい、マルグリット伯爵夫人の庭園エントランスに足を進めた。
今日はガーデンパーティーのようだ。
見覚えのない従者とその主人の来訪に、誰が来たのかと思い、皆が一斉に顔を上げた。
そこには…
「花の、精…?」
「天使…?」
11歳のリリーはまだあどけなくて、美人という表現は適さないが、そのまばゆい姿を見た人は、一目で心を奪われたようだ。
「陶器のように白くつややかな肌だわ…」
(生まれて11年のインドア生活と今朝の磨き上げから)
「なんて華奢で儚げな立ち姿なの…」
(緊張で震えております)
「それでいて、指先、つま先までも気品が溢れ、優雅だ…」
(新体操トレーニングのたまもの)
長くウェーブがかったプラチナブロンドは太陽の光を集めてキラキラと輝き、サーモンピンクのレースを繊細に重ねて花びらを演出されたドレスに包まれたリリーは、まるで庭園の花から出てきた妖精のような神秘的な美しさを表していた。
緊張して伏せた目元に長いまつげの影が落ち、それが更に儚げにみせているようだ。
皆が口々にリリーを褒めたたえた。
しかしリリーにはざわめきにしか聞こえず、自分の方をみてコソコソ話されている現状に、アウェイ感を強く感じていた。
あーもう帰りたいよぅ… …
「リリー! こちらよ!よく来てくれました」
マルグリット先生がテラスの奥から手招きをしてくれている。
「!!」
「!!」
「!!」
あの方が、あの…
どうりでお見かけしないお顔だわ…
それにしても綺麗…
皆から凝視されて居心地の悪い雰囲気の中、私は転ばないよう慎重に歩みを進め、先生の前に到着した。
「マルグリット伯爵夫人、本日はお招き頂いてありがとうございます。
何ぶん初めてのお招きで、無作法などしてしまうかもしれません。ご指導宜しくお願い致します」
「まぁ、リリー。今日は授業じゃないのですから、気楽に楽しんで欲しいと思っておりますのよ。 皆、あなたの美しさに驚いているようですし…ふふふっ。さぁ、こちらにいらっしゃいな。年の近いご令嬢も多いから、ぜひお友達を作られてね」
お、お戯れをーーー!
マルグリット先生は本当無茶振りをなさる!!
私は苦笑いをして、先生から示された椅子に着席する。
お茶会という、戦いのゴングが切って落とされた。
「リリー様はどうして今までお茶会に出られたことがありませんの?」
「そのお肌と御髪のツヤはどのようにしてお手入れされていますの?」
「ウィリアム様(兄)にはどなたか良い人がもうおられるのでしょうか」
「そのドレスはお花で作られたみたいに美しいですわね、どちらで仕立てられましたの?」
会話というより質問責め、尋問に近い交流となり、私はあわあわしながら、ひとことひとこと言葉を選び、小さな声で返答していく。
そのうち、話題がエルム王子に移った。
「リリー様はアルジェント様と幼少から婚約されてるのですってね」
「あっ、私もお聞きしたいと思っていました! 殿下と、普段どのようなお話をされますの?」
「王子様がお好きな物はどのようなものでしょうか?」
「いつもお会いしたりお出掛けしたりなさいますの?」
私は正直あまり王子に関心がなかったので、この手の質問には困ってしまった。
気づいたのは、王子のことについて、ほとんど知らないということだ。
「エルム殿下は…」
「まぁ! リリー様はアルジェント王子様のことを、エルム王子様とお呼びになられているのですね!?」
いーいな〜ぁ!!
一斉にテーブルのご令嬢達が声を上げる。
私はとりあえず、お出掛けしたことは今年の誕生日の1回だけで、一緒に観劇をしてリボン屋さんに寄ってもらったということを話した。
みんな身体を前のめりにしてフンフンと聞いていた。
「何アレ。自慢? ただの政略的婚約のクセに。
ちょっと綺麗な見た目だけど、ずっと療養してらしたわけだから、教養なんてほとんど無いはずよ」
「王子妃になれば、いずれば王妃になるのよ。容姿だけじゃやっていけないわよね」
さすがに同じテーブルについている令嬢で、リリーにあからさまな敵意を向ける人はいないが、少し離れたテーブルには好意的な人ばかりではなく、悪意を持ってリリーをみている令嬢も多かった。
誤字脱字報告、とても助かります!
不勉強なもので、勉強になります。
ありがとうございます(*^^*)




