40.新しいトレーニング
2日間ほど死んでいたが、3日めに復活した。
いきなりハードなトレーニングはできないので、リハビリがてら、ジニアが手に入れてくれた鞠で遊ぶことにした。
マリーと剣で打ち合った時、動きが全然読めなかった。
フェンシングは胴体を狙うことが多いから的が大きいけど、今回みたいに持ってる剣を払うためには、動体視力と気配を鋭敏に察知する力が必要だ。
新体操でボールをしている時は、投げて体で受け止め、転がす間、全く目を開けなくてもボールを操ることができていた。
それは、ボールの気配を完全に感じられていたからだ。
ボールの動きに身体を合わせられるから、ボールを落とさずにあらゆる場所を転がすことができる。
今は、目をつぶって鞠を放り投げたら、身体の上に落とすこともできない。
試しに、右の手の甲に載せた鞠を左の手の甲まで転がす… はずが、途中で落下する。
次に、手のひらに乗せ、手と肘を内側にくるっと回して背中側から高く持ち上げる… はずが、途中で落下する。
全然ダメだわ。
こんなんじゃ全然、話にならん。
まず、指先から足先まで、自分の身体全体に意識を張り詰める。
息を小さく吐いて鞠を手に乗せ、目を閉じる。
久々に、寝室で静かなトレーニングを始めた。
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「お嬢様、おはようございます。今日はマルグリット伯爵夫人が来られる日ですね。ドレスを何点かお持ちしました」
「そうね、早く食べてしまわないと」
ちょうど朝食真っ最中。
私は最近、左手でナイフを、右手でフォークを持っているため、食べるスピードがかなり遅いのだ。
基本部屋食だから、誰にも見咎められることはない。
ジニアも、食べている所をジロジロ見たりしないため、ただ食べるのが遅い令嬢になっている。
ボールを上手く扱うには、左手が右手と同程度の繊細な動きができなくてはならない。
百合子だったころも、食事や書字を左手で練習させられたものだ。
何とか朝食を食べ終えて仕度を済ませたら、ちょうど先生が来られた音がした。
今日は地理と歴史の日で、おおかた本日の内容が終わった時、マルグリット先生が手紙を手渡してきた。
「?」
今一緒にいるのに、わざわざ手紙?
「開けてごらんなさい」
なんだろ。
ピリッ
「… … !!」
「ぜひいらして下さいね!」
先生はニッコニコでそう話す。
ついに来た、お茶会の招待状であった。




