314.結婚式②
婚約式、誓婚式は滞りなく順調に、予定通りに完了した。
あとは最後に、庭園でフラワーシャワーとなる。
この国にはなかった風習だが、参列できない人(公爵家、別邸のメイドさん達やお世話になった人々、劇団の仲間達、北の砦の皆が来てくれた時のために準備してもらったのだ)
「「リリー様!! エルム王子!!
おめでとうございます!!」」
「「本当におめでとうございます!!」」
皆、口々にお祝いを述べ、2人の美しさに賞賛の言葉を並べた。
まごうことなき美男美女なのだ。
「リリーさまぁぁぁぁ 綺麗ですぅぅぅ」
マリーとカシアは号泣、ロータスもハンカチがびしょびしょだ。目が分からないくらいシワシワになっている。
リリーは褒められすぎて照れるが、やっぱり嬉しくてずっと笑っている。
「お嬢サン、とうとう結婚しちまうんだな。
良かったのか? もう戻れないぜ」
ニヤニヤして寄ってきたのはアシュトンだ。
後ろにロセウス氏(←アシュトンパパ)もいて、なぜか泣いている。
ふと気づくと、庭園の入り口に、初仕事となるリリー王子妃の近衛騎士隊が、王国旗を持って立っていた。
あっ
ジェイバー… ヘザー… グリス!
グリス… 無事に騎士試験受かったのね… 良かった…
彼らは周囲をくまなく警戒していたが、リリーがそちらを見ていることに気づくと、少しだけ表情を緩めた。
おめでとうございます、と目で言ってくれた気がした。
…!!
リリーはたまらなくなって、駆け出した。
ドレスの裾もヴェールもバッサバサに振り乱し、突然駆け出した花嫁に王子も周囲(義祖母も)も驚いたが、その先にジェイバーがいることに気付いたので目をつぶることにした。
ジェイバーも驚いた顔で手を広げ、リリーを迎えた。
「ジェイバー!! 貴方が近衛騎士に志願していると知った時は驚いたわ。そして試験をさすがの成績で飛び越えて私の傍に来てくれて、すごくすごく嬉しい!! 心強いし…
でもお家は良いの? 貴方、長男なのでしょう…?
私の護衛を完遂して、やっと念願の兵士に戻るのではなかったの?」
ばふん!と、がっしりしたお腹に抱きついて見上げる。
これでは、ピンゼル様を笑えない。
「リリー様… もう王子妃になられたのですから、このようなことはお控え下さい」
と肩に手を置いて苦笑い(嬉しそうに)してから、
「家には弟がいるから、大丈夫です。
父も、賛成してくれました。自分のいる場所はリリー様の傍であり、これまで冒した失態のぶん自らを鍛え、今後は何人たりとも触れさせないようお護り致しますから」
と言って左胸に手を当て、礼をとった。
「とても綺麗ですよ。おめでとうございます」
目を細めて祝辞を述べる。
ジェイバーの笑顔なんて初めて見たかもと、目を丸くする。
でも嬉しくてリリーも笑った。
「ありがとう! これからも、よろしくね!」
(きっと無茶しちゃうから…)
そこからは、いわゆる披露宴だ。
建物の中で、外で、立食パーティ形式で食べ物を用意している。
それもリリーの希望だった。
もちろん、お色直しもある。
お色直しは、また他の美しいドレスに着替えて飾るためではなく、皆と食事を楽しむために、この絶対に汚されない衣装と国宝級の宝石を外すのだ。
いつもの普段着ドレスに衣装替えをし、一緒に食事を楽しみたかった。
リリーがお色直しをしている間に、会場の準備はすっかり整っていて、皆初めての屋外立食形式に驚いていた。
共和国での炊き出しや、北の砦の差し入れで採用したスタイルなので、件の関係者は慣れたものだったが、皿を持って自分がウロつくこの形式は、貴族の方々には馴染みのないものなのだ。
しかしすぐに慣れ、要は『テーブルマナーもへったくれもなく、好きなものだけとって食べれば良い』ということを理解したらしく、皆いそいそとテーブルの間を行き来している。
リリーはあちこち忙しく動き回りながら挨拶をしたり話に花を咲かせたりして、今後気安く会えなくなる人達との交流を目一杯楽しんだ。




