313.結婚式①
とき梳かされて絹糸のように輝く髪を結わえられ、サテンのリボンと編み込まれた髪は後ろできっちりまとめられている。
白いバラの花冠にヴェールがかけられ、ふわりと肩に落ちる。
ここ1ヶ月は身体を磨き上げられて、更に女神のように美しくなったリリーは、見事な花嫁さんになっていた。
ただ、朝から何も食べていない。
式の段取りや次第は覚えていると思うが、失敗は許されないから手汗と緊張感がすごい。
気持ち悪い…
戦場でも元気一杯なリリーは、今日ほど死にそうな顔になったことがなかった。
「リリー様… 綺麗です…!」
ジニアが感激したようにため息をつく。
「今日は公爵家の皆も、お嬢様をひと目見ようと、会場まで来ていますよ!」
「えっ本当!? カシアやマリー、ロータスも?!」
「勿論です。 邸宅を放ったらかしにして良いと、旦那様には許可を頂いています」
「まあ! お父様… 」
そんな話で盛り上がり、緊張もほぐれた所で、扉がノックされた。
「リリー様、皆様お揃いになりました。
会場のご準備も整っております」
神官に声掛けを頂き、裾を踏まないよう気をつけながら廊下に出た。
そこに、王子が待っていた。
「リリー… 綺麗だ… 」
まばゆいばかりの花嫁姿に、早くも感無量な王子が頬を染める。
王子も勿論着飾っていて、太陽のような明るい金髪を後ろに流して整えている。一般的には女子が惚けるような容姿だし大変素敵なのだが、なんせリリーは蛋白なのだ。
ポッとなることもなく、むしろキリリと引き締めた表情で会場入り口へ向かう。
それはまるで、戦地へ向かう精悍な顔つきで。
そんな、氷のような表情のリリーにもメロメロな王子は、幸せいっぱいに手を引いて進んだ。
※ ※ ※ ※
王都の中央神殿、色とりどりのステンドグラスから美しい光が降り注ぐ中、2人が入場をしてきた。
サイドの席には、友人の令嬢達(シエル様やリノン様、ローズ様、フリージア様)や、マルグリット先生、アズール先生、ヴィオラさん、ハルディン子爵夫妻、ジャスプ子爵が拍手で迎えてくれる。
王子サイドの席にも、たくさんの友人達が同じように祝福してくれている。
そのまま少しずつ進むと、見たことの無い初老の、美しい銀髪の女性が、目の辺りを震えるハンカチで押さえていた。
…? と思ってその方の隣を見ると、正装をしたグレイとグリス、父のネーロ氏がいたので、多分… お母様のお母様、リリーのお祖母様なのだろう。
3人から支えられてやっと立っているような感じだ。
その静かな涙に、リリーの目頭が急に熱くなった。
そして、お父様、お兄様の横顔をまともに見られないまま通り過ぎる。
なぜか、泣きそうになっていたからだ。
式も序盤で無様に泣き崩れるわけにはいかない。
王国の重役や高位貴族の方々、他国からの来賓の方には何とか礼をとり、大神官の前に立った。
王国の守護女神、フローラ像が見守る中、式が始まった。




