311.王城会合 その後
「騎士は、駐在の警護騎士であれば、個々の能力如何で採用されることはありますが、こと近衛騎士となれば、隊員との連携や信頼は必須です。
仲間を貶める者を、信頼して背中を任せることはできないでしょう。
バルサム君は近衛騎士の適性が不足していると、言わざるを得ません」
アゲート侯爵(近衛騎士総隊長)が言いにくそうに、しかしハッキリした声で答えた。
宰相は、王妃様と総隊長を交互に見てから、頭を垂れた。
「申し訳ありませんでした… 我が子可愛さに、冷静な判断力を見失っていたようです。
今仰られたことについて、異論はありません」
「父様!」
バルサムが悲壮な声を上げる。
このままでは、近衛騎士への道は閉ざされてしまうのだ。
何とか反論しようとしている。
これにはさすがに宰相パパは声を荒らげた。
「バルサム! まだ分からないのか!
もう、近衛騎士になる、ならないの話ではない!
王族に不敬を働いた咎の責を問われているんだぞ!」
「そんな…」
「申し訳ありません、いささか甘く育て過ぎたようです。
落ち着いてから、きちんと私が理解させます。
この上は、どのような罰も受け入れますので、今日の所は退席させて頂いて宜しいでしょうか」
宰相は、先程と打って変わってペコペコと汗をかきながら王妃様にお伺いを立てる。
「構いません。その者の処遇については、隊長達と王にも意見を聞かねばなりません。
どの道ここで決められるものではありませんから、下がって良いでしょう」
「ぐっ…」
「ありがとうございます! それではこの場は失礼致します」
バルサムはまだ不服そうだったが、余計なことを言わないよう宰相に引きずられて接見室から出ていった。
何となく、接見室にほっとした空気が流れる。
王妃様は紅茶を入れ直すよう侍女に声を掛けた。
新しいティーカップと、オレンジのマドレーヌが運ばれてくる。
「それで、リリーさんは彼をどうしたいの?
危害を加えられた張本人ですもの、意見くらいは聞かせて欲しいわ」
王妃様が美味しそうに紅茶に口をつけた。
「うーん… そうですね… 彼をどうしようとかかんがえていなかったので、特に思うこともないのですが…」
マドレーヌをぱくりと口に運ぶ。
柑橘系のさわやかな香りが鼻を抜け、肩の力が解けた。
「あら、そうなの? では、予定通りに貴女の近衛騎士として頑張ってもらう?」
!
そう言われると、彼に背中を預けるのは不安だし無理だ。
むしろいつか刺されそう。
正直怖い。
「いえあの、それは無理みたいです、ごめんなさい」
「ではやはり、彼は近衛騎士は退団ね」
それでも自分のせいで誰かの夢が閉ざされることに、やはり申し訳なさと責任を感じる。アゲート侯爵の退任といい、バルサムの処遇といい、王族の権限や責任の重さをまざまざと感じた1日となった。
その後、王妃様が王様とも相談して、バルサムは騎士団そのものからの退団と、父である宰相は減給となったようだ。
子供に甘すぎることが今回の件の原因でもあったし、対応もまずかった。
結局今日一連のやりとりの中でバルサムはリリーに謝罪の言葉を口にしなかったのだ。
反省の意志無しととられ、近衛騎士はおろか、騎士道にも外れると判断された。
そしてそれを促しもしなかった宰相は、やはり問題なのだった。
宰相の跡を継げるかどうかは彼の頑張り次第だが、とりあえず騎士への道は閉ざされた。
王子妃の近衛騎士は、隊長がジェイバー、副隊長がヘザーと決まり、安心安全な構成にまとまった。
隊員はバーチや、現騎士隊からの志願者からなるそうだ。
とにかくジェイバーとヘザーがいれば、かなり心強い。
いろんなことがありすぎた1日で、リリーはその夜、ベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。




