309.王城会合⑤
「父様!!」
バルサムの驚いた声で扉を見ると、ふっくらした温和そうな金髪男性が立っていた。
「バルサム… 今の話は本当なのか…?
誰かをかばっているとか、本当は勘違いなのではないか?」
「 … 」
「バルサム…」
気まずそうに俯くバルサムは、否定をしなかった。
ただ、悔しそうに唇を噛んだ。
「だってまさか王子妃が紛れ込むなんて… 思わないじゃないか。 俺は、俺の進む道を邪魔する奴を排除しようとしただけだ。
やり方だって、別に命を取るようなものじゃない。
そこら辺の奴が普通にやることばかりだ。
しかもリリー様に怪我をさせた訳でもない。
それなのに、なぜこんなことに…」
誰とも視線を合わせず、吐き捨てる。
ライバルを蹴落とすなんて、競争社会じゃ普通だと彼は言っているのだ。
相手が王子妃だからこんなに(王城に呼ばれるくらい)問題になった。
でも、王族が騎士に紛れ込む方が普通じゃないんだ、と。
不敬だぞ!
口を慎みなさいバルサム!
と、隊長達は言いたかったが、宰相が傍にいるため、何とも微妙な雰囲気が漂う。
確かにリリーの行動は王族にあるまじきことだったが、歴史を紐解けば、こんなワガママ、ワガママのうちに入らない小ふざけ程度のものだ。
貴族子息ごときに糾弾できるものでもない。それなのに、要は"あいつだけ何で特別なんだよ"と口に出してしまうあたり、まだまだバルサムは子供なのだと思われた。
ここは宰相からきっちり言って頂こう。
そんな隊長達の苦悩と期待を背負って、宰相が口を開いた。
「確かに… リリー様も、少し冗談が過ぎましたかな」
!?
!?
そう言って宰相はリリーに慈悲の顔を向け、神妙な顔で頷いた。
「王も仰っていました。"この件で、リリー様は王族としての自覚や影響力を理解できるだろう"と。
我が息子も、リリー様もまだ年若く、子供とは過ちは起こすものです。今回の件も、苦い思い出ではありますが、それを糧に一層の成長が期待できることでしょう」
うんうんと満足気に首を振る宰相に、隊長達はコチーンと固まり、何も反応ができずにいた。
そういえば宰相は… 死ぬ程子供に甘いのだった…!!
「 … 」
「 … 」
それを肯定の意と宰相は受け取った。
「バルサムも、だからこんなに憔悴していたんだな。
昨日から、様子がおかしいと思っていたんだ
おぉ、可哀想に酷い顔色だ。 うむ、充分に反省はしているようだ。
幸い、リリー様にお怪我や実害は無かったようだし、王妃様もご無事だ。
今日はもう下がらせて貰っても宜しいかな?」
宰相が眉を下げてバルサムの肩に手を置き、退出を促す。
何のかんの煙に巻き、良薬は口に苦し的な話で締めくくりかけている。
宰相がちらりとリリーを見た。
えっ、私?
リリーも、もともとそれどころではなかったし(アゲート侯爵退職話で頭がいっぱい)、言われてみればそうかも…?などと、だんだんよく分からなくなってきたので、コクリと頷いた。
しかしそこは、王妃様が黙っていなかった。




