305.王城会合①
決戦の朝。
リリーはグレイとグリス(むしろスピネル家)の明暗を背負い、きっちりと髪を結い上げて息をついた。
準備は万端だ。きっと大丈夫
いざ!!
王妃様と近衛騎士隊長の待つ部屋へ、満を持して進む。
バルサムは、昼前の時間にノロノロとエントランスに降りてきた。
隈ができた虚ろな目を母親に驚かれつつ、「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」などと励まされながら家を出る。
いざ…
王城の接見室へ、死相を浮かべて進む。
※ ※ ※ ※
リリーと王妃様、近衛騎士総隊長の会合は、朝から行われていた。
時刻として10時頃だろうか。皆それぞれの気持ちを胸に、緊張した表情を浮かべている。
「まずは、リリーさんから、今回のことに至ったいきさつを説明して頂こうかしら」
王妃様からの進行で、まずはリリーから話をすることになった。
リリーは一呼吸置いて落ち着いてから、昨日から死ぬ程練習しているいきさつを、真剣に話した。
「なるほど…
貴女の従姉弟に頼んだのね…
どうりでそっくりな筈だわ。年も同じくらいですし。
でも、貴女のご両親の結婚は確か、ほとんど駆け落ちに近く、当時かなり話題になったのよ。
結婚に反対されていた相手方のご両親は結婚式に参列されなかったはず…
貴女は母方の家について、何も聞かされていないと思っていたわ。
ましてや従姉弟の存在など、いつお知りになったのかしら」
王妃様に尋ねられる。
よしよし、予定通りだ。落ち着いて答えれば大丈夫。
「去年の、パレット王国から持ち込まれた熱病のことは、覚えていらっしゃいますか?」
「勿論よ。貴女と、ラピス公国の公子がお薬を見つけたのでしたわね」
「その通りです。 その薬の元となる植物を探しているときに、偶然スピネル家のグリス様にお会いし、お世話になったのです。
その時に、容姿や姿形がとても似ていることや従姉弟であることを知りました。
私にグリスを紹介して下さったのはジャスプ子爵様ですわ。
お疑いであれば、お尋ね下さい」
「そうだったの… 別に疑って調べたりはしないわ」
「この身代わりは… 私が思いつきでグリス様にお願いしました。私は公爵家、彼は男爵家。私に頼まれれば断ることはできないと思います。
本当は2人で無事に任務を勤め上げてグリスが近衛騎士になる予定でしたが、今回のことが明るみに出たので、グリス様は諦めて辞退を考えています。
全ての責は私が負いますから、どうかグリス様に騎士試験を受けるチャンスを頂けないでしょうか…」
リリーは手を握って嘆願する。
これが、今日のリリーの正念場だ。
王妃様は眉を寄せて考え、隣にいる近衛騎士総隊長に意見を求めた。
「本当に… 今回貴女がかけたご迷惑は、王族だけの問題ではありません。近衛騎士の皆様にも要らぬ心労を与えましたし、業務妨害にもあたります。
その辺りは本当によくよく反省なさいませ。
ただ、そのグリスさんの処遇については、私はどうすることもできません。
アゲート侯爵(近衛騎士総隊長)、いかがでしょうか」
難しい顔をして黙って聞いていた総隊長が、口を開いた。




