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病弱な令嬢に転生した体育会系女子は、今世でも鍛えたい  作者: 雪熊猫
最終章✜クルール王国 王城篇
304/325

王城会合前夜

ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ


胸の中で嫌な鐘が鳴り響く。




「騙すようなつもりは無かったのですが、素性を偽って騎士試験に参加してしまったのは事実です。

このように、皆様を混乱させてしまったことは本当に申し訳なく思います。


騎士試験をご一緒できて、皆様の人となりを知り近づけたことは、とても良かったです。

最後までご一緒できなくて大変残念ですが、皆様の活躍をお祈りしておりますね」



振り払ったかつらから零れた髪と瞳を目にしてから、リリー様がそう言って礼をとるその間までずっと、心臓が爆音で跳ね続けていた。





とりあえずその場は解散となり、リリー様が王妃様と近衛騎士隊長と宿に促されている背中をただ見つめていた。


姿が完全に見えなくなってから、並んでいた騎士と見習い達がわいわいと話し始めた。



「まさかあいつがリリー様だったなんてな」


「全然気づかなかったよ! というか、噂に違わずすごい人だな…」


「俺達全然ダメじゃん… 近衛、要る?!」


みんな、してやられたーと乾いた笑いを浮かべる中、バルサムだけがひとつも笑っていなかった。



「 あ… 」



そのことに気づいた数人が口を噤む。

そして気まずそうにモニョモニョごもった。



「お… お前、やらかしたな! やべーんじゃね?」


明るく茶化して和ませようとした猛者が1名いたが、ギロリと睨みつけられて肩を竦める。



「君にお前と言われる謂われはない」



そう言ってそのまま宿に向かった。

その後は上の空で、翌日の花祭で何をしたかは、全く覚えていない。





※ ※ ※ ※



「あらバルサム、お帰りなさい。初めての任務は疲れたでしょう。 今日は貴方の好きな牛すね肉の赤ワイン煮を頼んでいるわ。もう少しでできるから、まずは湯浴みして身体を温めていらっしゃいな」



侯爵邸に帰ると、母様が出迎えてくれた。

その笑顔に一瞬泣きそうになる。

それを唇でグッと堪えて小さく返事をし、部屋に向かった。



「バルサム。任務はどうだった。王妃様のお目に留まったか」


低い声で呼び止められ、背筋が凍る。


「お父様…」



「何だその顔は。あまり活躍できなかったのか。

 …まぁ、まだ見習いのお前に、過度な期待はしていないさ。これから実績を積んで信頼を得ていけば良い。

今日はよく休め」


ポンと肩を叩かれる。


「はい、ありがとうございます…」


曖昧に頷いて立ち去ろうとした所で


「そういえば」


と呼び止められてしまった。



「お前を姑息な手口でやりこめようとする男爵家の息子がいると言っていたが、そいつの態度は改められたか?

その領地と取引きのある商会には関係を見直すよう伝えていたが、領主の評判はそんなに悪くなかったようだ。

息子だけが性悪なのかもしれん。

まぁ実力の無い権力欲だけの奴は何をするか分からないから、気をつけなさい」



「 はい… 」


消え入りそうな声で返事をする。

お父様に話した方が良いか、話さずに何とかならないか、頭の中はぐるぐる回るが、答えが出ない。

自分がしたことが身体じゅうに纏わりついて枷をつけたみたいに重かった。



その日は湯浴みはしたが、こってりした晩餐などは喉を通らず、疲れていて食欲が無いと断って早めにベッドに入った。





不安で眠れない夜を過ごし、少し朝寝坊をした昼前。

まだぼやけた頭で母からの伝言を聞く。



「バルサム、先程王城からの方が来て、明日のお昼過ぎに登城してほしいそうよ。

近衛騎士隊長様と、王妃様からのお呼びですって!

もしかして昨日の任務の活躍をお褒め頂くとか… 近衛騎士の採用に関することかしら?

明日は素敵な服を用意しなくちゃね」



ウキウキと話す声がだんだん遠ざかり、身体の血の気が一気に引く。




その夜も禄に寝られないまま、そして結局両親に何も伝えられないまま、とうとう翌日の朝を迎えてしまった。



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― 新着の感想 ―
[一言] >その領地と取引きのある商会には関係を見直すよう伝えていたが 息子可愛さから盛大に墓穴を掘った模様 客観的には採用試験のライバルに親の力借りて嫌がらせ、でしかないし
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