301.スピネル男爵家③
とりあえず、身代わり受験に至った経緯について、口裏合わせから始めた。
2人は、王子妃のワガママに付き合わされた哀れな男爵子息という設定だ。
「それはちょっと…」
グリスが難色を示すが、正直に話せば多分かなりマズいことになる(そもそもグレイがグリスの代わりに参加しようとした所からヤバい)から、他に案はないのだ。
結局、
「自分より弱い人に守られるのは嫌だわ。 護衛は自分で選びたいの」
という、高飛車王子妃リリー様を作り出すことにした。
実際かなりグリス(リリー)は好成績だったし、結果をみれば王妃様の命を救ったも同然なので、そんなことを言い出しても不思議はないと思う。
騎士訓練の視察の際は、流石に一人二役はできないので、正グリスが入れ替わった …ことになった。
怪我のことには一切触れず、とりあえずの設定を確認し終えた所で、ふとグレイが言った。
「僕らはそもそも、どうやって知り合ったことに…?」
た、確かに…
身代わりに怖気づいて体育座りのグレイと合わなければ、リリーは2人と会うことがなかったのだ。
クソニンジン事変を持ち出すのも、関係としては薄すぎるし怪しい。
なぜグリスに身代わりを持ち掛けたのか…だ。
ううーん…
3人で頭を抱えていると、
コンコン!!
比較的強めのノックが響いた。
グレイが様子を見に行く。
そして戻ってきたグレイがリリーに、
「すみません、父がどうしても挨拶をしたいと…
表に停まっていた公爵家の馬車に気づいたようで」
と言った。
「構いません。こちらこそ、こうしてお邪魔しているのにご挨拶もできておらず… すみません。
ぜひお会いしたいです」
リリーが快諾したので、グレイが父親を招き入れた。
「はっ はじめまして。私はスピネル家当主の、ネーロと申します! お会いできて嬉し…光栄です…!」
キラキラした金髪、優しそうなグレーの瞳でリリーを見つめる。
そしてふいに、その目からポロリと涙が零れた。
しかも、感極まったように号泣しだしたのだ。
整った容姿が崩れるのも構わずむせび泣く男性に対し、どうして良いか分からないリリーはオロオロと双子に助けを求める。
双子も全く訳が分からない様子で大いに戸惑ったが、とりあえず父を宥めにかかる。
「父さん急にどうしたのさ。リリー様も困ってるよ」
「王子妃様に会えたことが、そんなに嬉しかったの?」
2人が背中をさすりながら理由を尋ねる。
すると、ネーロ氏はぐすぐす鼻を鳴らしながら、絞り出すように言った。
「だってあんまり… あんまりにも姉さんに似ているものだから… ううっ う…」
なんですと?




