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30.王子様とお買い物

スペシャル護衛団の皆様にも聞いてみて、城下で1番大きなリボンのお店に行くことになった。



店への移動中の警護は、コンサートホールの警備員さんが減ったぶん若干薄くなったものの、まだ周囲からこちらは全く見えない人壁レベルであることは変わらなかった。



リリーは馬車の窓からだけでも、街並みや、どんな店があるのかを見たかったのだが、馬車の両脇を騎馬隊に囲まれていたため窓からは騎士の険しい顔しか見えなかった。



もう少し大きくなったら、こんなに警護に人を呼ばずにサラッと買い物したいな…

そのためにはある程度、自分の身は自分で守れないとダメね。

やっぱりフェンシングを再開しよう!

体操も目途がたってきたし、ちょうどこの前お兄様からレイピアが届いたってロータスが言っていたもの。




リリーは地道なトレーニングにより、今は既に逆立ち、倒立、上体反らし、全方向の開脚は全てクリアでき、基本的な柔軟性と筋力は充分獲得できていた。

側転も綺麗に回れるし、Y字バランスやアラベスク(片足で立って片足を高く上げる動作)も問題ない。

前転、後転も絨毯の上でどこまでも転がれる。

これから先は、例の体育館が完成してから実地練習に入るため、寝室でのコソ練ではこれが限界なのだ。




そんなことを考えていたら、お店についた。


エルム王子にエスコートして貰い、馬車から降りる。

お店の人は、突然来たロイヤル感あふれる面々と厳重すぎる警備に吹き出る汗が止まらないようだ。



「急に立ち寄らせてもらってすまない。連絡もあまりできずに気を遣わせてしまったね」

エルム王子がねぎらうと、お店の人はますます汗をかきながら、

「とんでもございません! このような店に足をお運び頂けて、恐悦至極にございます!!」

ははーーっと平伏せんばかりにお辞儀をしていた。



リリーは、確かに王族がいきなり来るなんてビックリしただろうな、ごめんねと思いながら、こんなチャンスは滅多にないので、お目当てのリボンを探すことにした。


「あっ!こちらが良いですわ。」

最初にリリーが選んだのはオレンジ色のつやつやしたリボンだ。


「へー、リリーはこういう色が好きなんだね。でもこのリボンは結構太いね。ドレスにつけるのかな。どのくらい買うの?」


リボンは量り売りなので、好きな長さを買うことができる。


「えっと、6mお願いできますか?」

リリーは店員さんに頼んだ。


「6m!? ずいぶん長く買うんだねぇ」


エルム王子はリリーのリボンの太さや長さに驚いているが、それはこれがオシャレ用でなく、新体操用のリボンにしたかったからだ。


新体操のリボンには決まりがある。

リリー達の年代は新体操ではジュニアの部(その中でも小学校高学年)になるから、幅4〜6cm、長さ5m以上のリボンを使う規定なのだ。


違う世界で体操をするのだから別にこだわらなくても良いのだろうけど、多分体格に合わせて決められた基準だと思うので、この規格で買っておけば間違いんじゃないかと考えた。



「はい。とても素敵なリボンですので。」

そんなこと言っても分からないだろうから使用用途には触れず、リボンを褒めて、同じくらいの規格の色や柄が違うリボンをいくつか買うことにした。



「リボンは僕からプレゼントさせてよ。リリーの誕生日お祝いにするから」


「いえいえそんな、素敵な劇を見せて頂いたことで充分です」


リリーは断ったが、結局お言葉に甘えることにした。

まぁ、宝石みたいに目が出る程高い買い物じゃないし、大丈夫かな。



他には、ベージュや朽葉色で伸縮性のある生地で作られたリボンや、普通に髪や服を飾る可愛いリボン、メイドのみんなのお土産用リボンを選んだ。


あと、このお店には粘着式テープも置いていたため、2〜2.5cmと5cmの布製テープを何種類か購入した。

おおかた、欲しいものは全て手に入ったのでリリーはご満悦だった。





空が少し橙色に移り変わる頃、馬車は無事に公爵邸に着き、リリーは今日の御礼を述べた。


「エルム王子様、今日は1日ありがとうございました。

劇もお買い物もとても楽しく、こんな素敵なお誕生日プレゼントは初めてです。本当にありがとうございました。」



「僕も、普段見ないもの、行かない所にリリーと行けて楽しかったよ。

リリーの体調が心配だったけど、最近本当に元気になって、今日も最後まで大丈夫そうで良かった。また今度おでかけしようね」



「はい。どうぞ宜しくお願い致します」



こうして、初めてのお出掛けは大変順調に終わることができた。



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