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病弱な令嬢に転生した体育会系女子は、今世でも鍛えたい  作者: 雪熊猫
最終章✜クルール王国 王城篇
292/325

292.花祭り⑨

広場に集められた黒装束の者は、剣で向かってきた者が5名、近くの建物の2階から矢を放ったらしい者のうち、逃げ遅れて捕まった者が6名の、計11名だった。

催事の広場の中央に、全員縛り上げられて集められている。


矢を放った残党は、今ヘザー達3隊がまだ追っているから、後に捕まるだろう。




「お前達、何者だ。なぜ王妃様を狙って騒ぎを起こした」


近衛騎士総隊長シエルさまのにいさまが問いかけるが、勿論誰も喋らない。



花が舞うにぎやかな催場は、踏み荒らされた展示の草花植物と、散らかった出店の品々、近衛もしくは敵の血痕で惨憺たる状況になっている。


逃げ帰った観客や参加者も勿論多く、あれほど笑顔の市民が集った場所は跡形もない。

強張った顔や硬い表情の者が少し残った以外は、閑散としてしまった。



お祭りは、完全に滅茶苦茶であった。


黒装束がほぼ捕らえられた後、隊長はほぼ心神喪失したような王妃様を建物にお連れし、中で休まれた方が良いと進言したが、手で拒否されたのだ。

リリーもお声掛けをしたが、首を横に振られただけだった。


少し身体を動かせるようになった王妃様は、紅茶と菓子で裾が汚れたドレスを着替えることもせず、会場に残られた。

今は、隊員が運んできた一人がけのソファに座って目を閉じている。

顔色はまだ白いが、少し頬に朱が差したように見えた。


各国の来賓の方々は、戦闘中は建物の中に避難していたが、王妃様が残られたことに配慮してか、今は広場の端でこちらの様子を窺っている。




「答えよ!」


隊長の声が響き、リリーはそちらへ向き直った。

黒装束は誰も顔を上げず、声も出さない。

リリーはゆっくりその輪に近づいていく。

怪訝な顔の総隊長に一礼し、リリーは口を開いた。



「剣で向かってきた刺客は5名と聞きました。

その方々はもしかしたら、上総国の妓女さまではないですか?」


リリーが隊長と対応した黒装束の者の前に立つ。

ぴくり、と肩が震えた。



「えっ!? まさか!! 滅多なことを口にされますな!!」


聞こえたらしい上総国の使節団長が、真っ青な顔で叫びだした。



「こんな侮辱、許せませぬ! まだ、騎士章も頂いていない者ではないか。だとしても、このような事、ただでは済ませませんぞ!!」


憤慨した様子でこちらに近づいてくる。



リリーはその姿を一瞥し、素早くしゃがみこむと、足元の刺客が頭に被った黒頭巾をむんずと掴んで取り去った。




ハラリ…

と広がる榛色の髪の毛は長く、こちらを見上げる長い睫毛と意志の強い瞳は、見覚えがあった。



「ば… 馬鹿な…」



使節団長は絶句した。

それは午前中、花舞いを披露した天女であり、王妃様に花冠を渡していた妓女だったのだ。

総隊長も、リリーの勝手な行動を諌めようと出しかけた手を降ろした。



そこから、総隊長の指示で全ての黒頭巾が外されたが、リリーの言う通り、剣で向かってきた刺客は催事で見事に舞った、あの天女達であった。



顔色がだいぶ戻った王妃様とは逆に、可哀想な程真っ白になったのは、使節団長だ。

目を剥きだし、泡を吹きそうに開いた口が乾いている。




「なぜ…」



王妃様が初めて声を出した。

信じられない、という感じだった。



上総国なんて国は、リリーも今回初めて聞いたくらい、国交の無い国だ。

王妃様にも狙われる心当たりは無いのだろう。

ましてや、犯人は女性だったのだ。

使節団長は本当に知らなかったようだし、国を上げての急襲でないように見える。



であれば、私怨?

面識も無い相手に恨まれる程、王妃様は外交をしていない。

それにクルール王国自体、他国に恨みを買うようなことはしていない筈だ。

動機は全く不明だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 使節団が要人の暗殺企んだとか戦争ものだしね 使節団長は暗殺に関わって無ければ脳卒中でぶっ倒れても不思議じゃないくらいのストレスだろうなぁ、現場責任者なだけに
[気になる点] 金、人質、恨み、だまされて、何が理由なんだろう? できれば、理由が助かってよかった、そうだったのかみたいな読んでて後味が悪くない人達だといいね。
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