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病弱な令嬢に転生した体育会系女子は、今世でも鍛えたい  作者: 雪熊猫
最終章✜クルール王国 王城篇
274/325

274.騎士訓練生⑯

「次の訓練は、敵兵の首または肩に斬りつける時の動きだ。

首や肩を狙うのだから、必然的に剣を高く振り上げることになる。

この時、腕ごと大きく動かすと脇が甘くなる上、最短距離で上肢を振れないから動きが遅く、敵に避ける隙を与えてしまう。


腕ごと振り上げずに、肘を上げて頭に乗せるイメージが望ましい。

肘のしなりで、柔らかく速く振り下ろし、首を取るか致命傷を与えることを意識することだ」



情景を思い浮かべると、かなりグロテスクなのだが、全員至って真剣に聞いている。

リリー(百合子)は、試合や戦闘でいくらか剣を振ったことはあるが、命を奪ったことはない。

どちらかといえばスポーツ要素の強い趣向なので、こういった血生臭い剣技には縁遠かった。

リリーは複雑な心境で眺め、無意識に両肩をさすっていた。



「リリー、大丈夫?」


表情が暗くなったリリーを心配して、王子が声をかける。


「えぇ、少し想像したら怖くなっちゃいました。

何度も剣には触れていたのに、今更可笑しいですよね」


リリーが眉を下げると、


「いいや。僕だって、誰かの命を奪ったことは無い。

これからも無ければ良いと思うし、騎士達かれらにもそんな機会が来ないよう、この国を治めたいと思っているよ」


王子にそう言われ、


「そうですよね。 訓練が、訓練で済むよう頑張らねばなりませんね」


リリーも微笑んだ。




その後も隊長の指導は続く。


「この、首や肩など高い位置に定めて斬撃や打突を繰り出す時の足捌きは、その場足踏みに近い。

大きく踏み出せば、その足幅の分重心が下がり、剣を上げる動きの妨げになる。

近づく時は、先程教えた踏み切りで瞬時に間合いに入り、いざ首を落とす時は、踏み切っていた足をなるべく素早く引き寄せてその場で1度土を踏んで体制を整え、一気に振り上げるんだ」



そう言いながら、藁束から少し離れた位置から走り込み、藁直前で踏み込んで残った足を引き寄せて真上に上がり、藁束の上部を斬りつけた。


その鮮やかな太刀筋に、訓練生の歓声が上がる。

その後は訓練生の息遣いや気合いの声が響き、藁束が打たれる音も力強くなっていた。

皆、この長い訓練の中で着実に力をつけ、身体が作られていっているようだ。

昨日まではその渦中にいたリリーは、感慨深い気持ちで、皆にエールを送った。




黙々と藁束に向かって練習をしながら、ベイローレル侯爵子息のバルサムは、チラリとリリーを盗み見た。

思ったより顔が綺麗だったので、ちょっと驚いたのだ。

彼女は騎士訓練を見てその迫力に怖気づいたのか、先程までは肩を抱いて震えていた。

可愛い所もあるじゃないか。

いずれ近衛騎士隊長になる予定だったし、あの容姿なら、護り甲斐はあると思った。

とりあえず、今日のような機会はそうそう無い。

何とか良い所を見せてアピールしたい所だ。


バルサムは静かに機会を伺った。





「よし! だいたいの動きは身についたようだな。

習熟度を確認したいから、今から試合を行うことにする。

昨日今日教えた内容を生かして、初日よりは試合内容が進歩していることを願っているぞ」


アルダー隊長がニヤリと笑い、初日と同じトーナメント表を用意した。



ということは、バルサムの第1試合の相手は、グリスだ。

バルサムは、今日彼を時々観察していて、気づいたことがあった。



今日は前回のようにはいかないぞ。

絶対に勝ってやる。


バルサムは仄暗い闘志を目に宿して、グリスを見つめていた。




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