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病弱な令嬢に転生した体育会系女子は、今世でも鍛えたい  作者: 雪熊猫
最終章✜クルール王国 王城篇
268/325

268.騎士訓練生⑩

今日までは弓騎の訓練で、応用訓練に進んだ。

弓騎訓練の応用は騎槍のように馬を駆りながら行うのではなく、動く的を射る訓練だ。


さすがに、馬に乗って弓を撃つのは訓練生には危ないらしい。両手を離して馬を走らせれば、落馬して命を落とすこともあるし、矢の軌跡が外れて他の訓練生に当たる可能性があるからだ。


そのため、吊るされて揺れる的や、上官が投げたボールを射る練習が行われた。

遠くまで矢を飛ばせるようになったリリーにとって、動く的を射ることはあまり難しくなかった。

もともと動体視力が良いのも手伝って、最後の方はゲーム感覚で的を撃ち落とすリリーに、周囲も驚いていたようだ。

ヘザーもリリーの伸び代に驚き、背中を叩いて喜んでくれた。



「グリス、またなー!」


「うん、ヘザー、また明日!」


ヘザーに手を振って分かれる。

彼は多分、騎槍も弓騎も1番の腕だと思う。

今の所、何も困ってないし元気そうだ。

リリーに教える余裕すらあるのだ。

彼は間違いなく合格だろうな〜。


とにかく明日の訓練はついに、剣術だ。

グレイから聞いた話では、グリスは剣術に長けていたらしい。リリーも、グリス代理として剣術は好成績を残したい所。


ワクワクしながら帰り支度をしていると、



ん…?



何人かが座り込んだまま動かないことに気がついた。

皆うつむき、背中を丸めている。


「大丈夫? 身体がしんどいの?」


リリー(グリス)は、心配をして声をかける。


「あぁ。体中が痛いし、手は皮が剥けて… 明日の剣も持てるかどうか…」


弓騎は手袋をして引いていたが、もともと手の皮が薄い、運動習慣の無い貴族の子息は、これまでの訓練によって身体じゅうがボロボロになっていた。

リリーがそうであったように、広げた指が震えている。



「騎士訓練がこんなに辛いなんて思ってなかった。

でも、うちは貴族だけどお金がなくて、僕は何としても騎士にならなきゃいけないんだ。頑張らないと…」


「うちもだよ。兄さんが2人いて、僕には継げる財産はないけど、好きな子がいるんだ。騎士になって、彼女と結婚したいと思っている。頑張らなくては」



騎士志望とはいえ、年齢的には13〜15歳、中学生くらいの子達なのだ。痛みに弱く、不安になるのも仕方ない。


訓練生の人数は日を追うごとに減っている。

それぞれ、騎士になりたい動機は様々だが、とにかくまだ諦めないと言っていて頑張りたいようだし、何とか持ち堪えて貰いたい。



「ちょっと待ってて!」



リリーは庭園の小屋に隠し持つ、応急処置セットを取りに行き、傷薬と包帯を持って帰ってきた。



「風呂の後にこの軟膏を塗って、上からこのガーゼをあて、包帯を巻いて寝ると良いよ」


リリーはもともと鍛えているのもあるが、回復が早いのはハルディン夫人からもらった薬達のお陰が大きい。

自分だけそんな楽をしてはいけないと、皆にも分けることにしたのだ。



「そんな薬があるのか? ありがとう」

「僕にも分けてくれるか? ここが痛くて…」

「俺も豆が潰れて…」



リリーは皮が剥けた人や擦り傷切り傷、打撲などに応じて塗り薬とアドバイスを行った。

皆は口々に感謝の意を伝える。



すると、遠くからそれを見ていたあいつが近寄ってきた。

ベイローレル侯爵家の子息とかいう、金髪坊ちゃんだ。


「お前達、そんな平民上がりの貴族から物を貰うなんて恥ずかしくないのか」


小馬鹿にしたように言い放つ。

平民が功績を上げた場合、1代限りの爵位を賜ることがあり、その場合は男爵の位を授けられることが多い。

だから男爵を下にみる高位貴族が一定数いるのだ。



「だいたい、それが薬だなんて保証はないぜ。悪いものを薬だと偽って渡せば、明日には動けなくなってライバルが減るんだからな」


そう言われれば、もともと面識の無い者同士、不安な空気が漂う。



「これは正真正銘の傷薬だよ。僕も使ってる!」


リリーは言い返し、自分の腕にも塗ってみせた。

黄色透明な軟膏は、皮膚に馴染んでさっと消える。


しかし、1度生まれた疑念はすぐに払拭できない。



「よく考えろよ。ここは仲良しごっこをする所じゃない。皆、家を背負ってるんだろ? 他人を蹴落としても掴みたい座じゃないのか。

俺も、近衛騎士隊長になるべくここにいるんだからな」


最後にひと煽りしてから不敵な笑みを浮かべ、スタスタと消えて行った。



気まずい雰囲気を残し、何となく目を合わさないまま、リリーに会釈をして皆は帰っていった。



本当、嫌な奴…

でもまぁ、使うも使わないのも自由だわ。

リリーは気持ちを切り替えて庭園に戻った。

 


やはりまだ、リボンは結ばれていない。

グリスの怪我は、思ったより長引いているのだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] これ意図してのものでは無いとはいえ本性の調査にピッタリ 試験が優秀でも同僚を貶めようとする奴は要らんと言われる奴が何人出るやら
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