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病弱な令嬢に転生した体育会系女子は、今世でも鍛えたい  作者: 雪熊猫
最終章✜クルール王国 王城篇
264/325

264.騎士訓練生⑥

1日ゆっくり休んだら、だいぶ身体が楽になった。

多分、筋肉痛も乗り越えて、だいぶ力がついたのだろう。

腕には力こぶ、腹にはうっすらとしたシックスパック。

昨日の湯浴みのあとに鏡に映る自分の身体を見て、リリーはちょっと驚いてしまった。

このままここで鍛え上げたら、最終的には女ボディビルダーに育つのかもしれない。

基本的にお姫様体質でないリリーは、自分の身は自分で守りたいタイプだ。

ここで学んだことは、きっと役に立つ。


あとは…

女性らしい曲線がささやかなのは、男装騎士としてはまぁ良かったと言えなくもない。

今は気にしないぞ… と目を瞑り、急いで着替えた。




何だかんだ言って、やはり槍は大きいレイピアみたいだった。

重さと長さにさえ慣れてしまえば、使い方を身体に覚えさせるのはあまり難しくない。

リリーの藁束は、突きまくった結果今やボロボロになっている。

騎槍は、とりあえず及第点を取れた。





休暇明けの今日は、それこそ全然経験の無い、弓騎訓練だ。

騎槍とは違う腕の筋肉が要る気がして、ちょっと不安な気持ちで集合場所に向かう。





「これが、弓騎で引く弓矢だ。怪我をしないよう、体格に合わせて弓を選ぶ必要がある。

君達はまだ分からないだろうから、上官に選んで貰いなさい」



アルダー隊長がそう言うと、何人かの上官、補助講師が訓練生の体格を見ながら弓と矢を見繕ってくれた。


リリーは実際に触れるのは初めてだが、弓道部の友達がいたから、練習を眺めたことはある。


弓を手にすると、意外にもズシッと重い。

幅も大きく弦も強く張られていて、引くのはかなり力が要りそうだ。

矢も長く、まぁまぁ重い。



肩から胸にかけての防具、手袋も渡された。



「まずは、素引きから始める。

矢をつがえずに、的に向かって弦を引き絞りなさい」



エア弓射ってことか。

隊長の指示で、皆ギリギリと弦を引いてみる。

やっぱりものすごく力がいるし、腹筋にも力が籠もる。

とにかくリリーも肩と腹を震わせながら、一生懸命弦を引いた。



「まずは、そうして弦を引き絞った状態フルドローを7秒保持すること。 姿勢は崩さず狙いがぶれないように気をつけなさい。

7秒保ったら、弦は離さず静かに腕を降ろすように」



「「「ハイ!!」」」



やってみると、これが本当にしんどい。


な…

7秒がこんなに長いなんて…!


弦を引いている時は、自然と息が止まる。

弓を下ろすと荒い息を吐き、再び一生懸命7秒を引き絞った。



「グリス、それではまだフルドローにはなっていない。

これくらいは引きなさい。 でなければ、矢が飛びません」


上官から指導が入り、手本を示される。

ぐいっと、リリーより更に20cm近く引き、弓がしなった。

弓はかなり曲線を強めているのに、指も腕もひとつもブレない。

姿勢も美しく、見惚れてしまう。



更に、


「まず肩幅に足を開き、重心の位置を安定させること。

そして背筋をまっすぐに伸ばして身体を開き、肘を伸ばしたまま弓を持ち上げて。そう。

次に、的のほうに向かい合って少し顎を引く。

その顎の下まで弓を引き、引き手(弦を引いている手)を顎の下に沿わせて固定アンカーリングしてから、押し手(弓を握っている手)がブレ無いよう気をつけながら更に弦を最後まで引き絞る。

この最後の引き絞りがフルドローだ。


これが基本の射型なので、必ず身につけて欲しい。

初めは必ず意識するように」


と助言を貰った。

 


やはり、兵士の訓練より騎士の訓練の方が教え方が丁寧だし理に叶っているなぁ…

兵士の訓練は、『こうやって、こうだ!』みたいな感覚的なものが多かった気がする〜。

などと、リリーは砦の兵士に聞かれたら怒られるようなことを考えていた。



「あっ! ありがとうございます」


いけないいけない! ボーッとしてた!

リリーは慌てて礼をし、再び個人練習に戻った。

エア弓射にてこずり、結局この日は矢に触れることはなかった。




その日、頑張りはしたが矢をつがえる段階まで至らなかった者は、訓練用のゴムチューブを渡された。

勿論リリーにも配布される。

弓を引く力をつけるための、自主トレーニング用品だ。

輪っかにして前に出した手に引っ掛け、引き手でゴムを引っ張って使うものらしい。



パレット王国から輸入することになったゴムが、こんなことに役立っているなんてと若干感動しつつ、夜のトレーニングを思ってため息を零した。





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