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234.カルトン共和国④

「何と…」



元帥の前に、再び集合した重鎮達は押し黙った。

先程、ヴノ大佐がルマロン少尉から得たペトラー中佐の侵略、恐喝行為について報告し、

ベルヒ大将がパレット王国アングール王女からの要求について、伝達し終えた所だ。



「何と余計なことを…」



両国からの抗議や要求は、とにかくリリーなる娘に関係していた。そして、そこから芋蔓式に共和国の問題点が浮き彫りになり、大国の逆鱗に触れた感じだった。

藪蛇とはまさにこの事だ。



「"我が国の問題は、今後我が国で対策を打ってきちんと対処する"と約束すれば納得頂けるでしょうか」


ムリマ補佐官が恐る恐るベルヒに尋ねた。


「いや… 

具体性に欠ける生半可な返答は逆効果かと思われます。

相手は10代の少女でありましたが、纏う怒気、覇気は凄まじく、狂気性さえ感じられました。


先日の砲撃も、今日の銃撃も、遠距離から我々を殲滅するのはごく容易いという感じでしたし、実際そうだと思います」



皆の頭に、たった10分そこらで跡形も無くなった廃鉱山がよぎる。

共和国は大半が海に面している。砲撃とやらは港に関係なくできるようだから、この国は籠の中の小鳥に等しく、逃げ場は無い。



「一体、どうすれば良いのか…!!」



共和国の食糧と医療については多少気になる所ではあったが、毎年多数の餓死者や病人を出しながらもこれまで国は潰れずに動けていたから、特に手立てを打ってこなかった。

たまに外国船が港に立ち寄ることがあり、宝石と食糧を交易することもあるため、衣服や美味しいものは結構手に入るのだ(あくまでも、一部の富裕層のみ)。

実質的に困っていなかったから、これまで放っておいた。


一般国民全体の問題など、いきなり言われて明日までに解決の目処などつけられる筈も無い。


ただ、あの王女がこの国を攻め落としたなら、我々は間違いなく殺される気がする。




「とりあえず、ペトラー中佐を至急連れてくるよう指示をしていますので、各自で案を練りましょう」 



今まで感じたことない生命の危機、期限タイムリミットまでの死のカウントダウンが、聞こえた気がした。





※  ※  ※




夜、父様が帰宅したので、夕食を食べながらリリーは昨日から行っている冬肺病対策とその手立てについて報告する。



「なるほど、なるほど。それは、かなり早めに手を打てたんじゃないかな。さすが私のリリーだ!!」


ちゅーでもせんばかりに距離が近い父を少し押しのけながら、


「今日も様子を見に行きましたが、まだ熱や咳は治まっていませんでした。冬肺病はアノフェレス熱病のような特効薬みたいなものはないようです。

一度発症すれば後は本人の体力次第… だから滋養のつくものを食べて早く元気になってくれるのを祈るしかできません…


ただ、これ以上広がらないようにすることが肝要です。この辺に、工夫の余地があると思います」


その後、リリーが感染拡大防止を目的としたアルコール消毒とスカーフマスクの重要性について熱心に説明し、父様とペトラーも何となく理解できたようだった。




「そういえば」


デザートも食べ終えて、席を立とうとした時に、父様が何かを思い出したように声を上げる。



「今朝早く、カルトン共和国で何か大規模な爆発があったらしいよ」


「え??」


「君の国には火山でもあるのか? かなりの煙と轟音が山々を反響していたと報告を受けた。砦からも、遠くに立ち上る煙が見えたそうだ」


父様がペトラーを一瞥し、残りのブランデーを呷った。



「ペトラー様、共和国には火山があるのですか? ご家族は大丈夫なのでしょうか」


リリーが案じると、


「いや… 俺の知る限り、共和国に火山はない…

何かが起きたのだろう。鉱山事故でないと良いけど…」


ペトラーも表情を暗くする。

ペトラーの家は鉱山産業と鉱物の商売だ。家族もだが、鉱夫の人達も心配なのだろう。



リリーはしばらく考えていたが、

「明日、国に様子を見に行ったらどうでしょう?

あっ!

もし、怪我人がいたら、私がいた方が何かの助けになるかもしれません。私も一緒に行きましょう」


名案だ!とばかりに手を叩いた。

父様とペトラーは目玉が落ちそうな顔でリリーを見つめた。






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