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23.音楽を嗜む②

百合子は基本的にポジティブ思考だから、転生という今回の良く分からない出来事についても前向きに考え、今世の身体に合わせて肉体改造に取り組んでいる。



しかし、だからといって、何も感じていないわけではない。




18年歳の百合子はあと2週間で夢を叶える所だったのだ。

そこに至るまでには辛いことも苦しいことも、我慢したこともたくさんあった。

小さい頃からしていた体操だって、最初から楽しんでしていたわけではない。

遊びたい時や怪我をした時に辞めたくなったことが何回もある。



それでも舞台俳優に憧れて乗り越え、鍛錬の結果、スタントマンにだってなれる身体能力を獲得したのだ。

そして夢を叶えるその目前で、ゼロに逆戻りどころかマイナススタートという事態だ。



家族環境についても、百合子は一般家庭だが家族仲は円満で、みんな仲良しだった。

家族であり、同じ劇団を支える同志という結束感があり、お互いを尊重して生活していた。

学校にはもちろん友達もいる。

なのに今世はお金持ちの貴族だが父と兄とは放任され疎遠、母は既に亡く、屋敷にはメイドや執事、使用人の人がいるだけ。友達もいない。



普通なら絶望から、自暴自棄になる人もいるような状況といえる。




そんなメリットの何もないこの転生でひとつだけ百合子が気に入っている点があった。

それが、リリーの声だ。



百合子は女の子にしては珍しい程、声が低かった。

女性が男装して演じる演目なら良いが、そうでない演目の時に、演出家から望まれる声が出せないのだ。

どうしても役柄に制限がかかってしまう。

これは、百合子の努力ではどうすることもできない悩みだった。




リリーの声は高く澄んでいて、よく響く。

もとはか細く、つぶやくような声しか出せなかったが、呼吸のトレーニングを腹式呼吸と併せて行うことで、強い声を出すことができるようになり、最近歌ってみてから気づいた。


リリーの声は声楽、歌劇に向いていると思う。

嬉しくて、部屋でもよく歌うようになり、手前味噌ながら、メイドの皆様にもお墨付きを頂いているのだ。



そんなリリーの声の魅力を今の所1番よく発揮できる歌が、アメイジングな歌なのだ。

どこまでも高く、どこまでも遠く長く、澄んで伸び、震え、周りをつつむような温かい音の波。

天使の歌声とはかくや、と自分で思う程、リリーの声は綺麗だ。




歌い終えたリリーに、ほぼ絶句に近い風体のマルグリット先生はしばらく固まっていたが、突然涙を流してリリーをガバッと抱擁し、いかに歌が素晴らしかったか、どんなに感動したかという内容のことをひたすらリリーに語っていた。



とりあえず、声楽はOKを貰えたようだ。

楽器をせずに済むみたいだから、良かった!!



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