206.カルトン共和国の急襲③
手当が終わった者を、騎士達が広間に運びこむ。
症状と重症度で部屋を分けた。
アシュトンとペルルには軽症者の部屋で会ったので少し安心した。
ピンゼル様と長く過ごし、ハルディン夫人と共に薬草図鑑や煎じ方の医書も学んでいたことがかなり役に立った。
持ってきた煎じ薬や軟膏は、ほとんどが誰かの役に立ち、空になっていた。
「残党は誰もいないようだ」
王子とオリバー様も戻ってきて、報告を始める。
そうこうしているうちに、馬に蹴られたり、敵に殴られ昏倒して意識を失っていた者がひとり、ふたりと目を覚まし始めた。そして…
「うっ… 」
ゆっくり上半身を起こして頭を押さえる巨漢の顔に、見覚えがありまくった。
「ロカ隊長!!」
リリーが駆け寄り、身体を支える。
近づいてよく見れば、隊長の横でまだ寝ているのはメガロだ。
「リ… リリー様…!? あ… 申し訳ありません…」
背中の温もりがリリーのものと分かると、表情を歪めて頭を下げた。
「いいえ、いいえ!!
無事でさえあれば、何も謝ることはありません。
それにしても、この様子は一体、どうされたのですか?」
リリーに問われ、隊長は明朝から起きたこの事態について説明した。
※ ※ ※
「なるほど…」
ロカ隊長の話を聞いて、ようやくこの事態の理由が腑に落ちた。
警備が手薄の時間帯の把握、怪しまれずに武器を盗み出したり、馬を放すなどの工作は、斥候か間諜の仕業とみて間違いないだろう。
ふと、リリーはさつまいもパーティーで見た、色白栗毛君のことを思い出した。
透き通るような白い肌にダークブラウンの巻き毛は、クルール王国では見たことがない、珍しい容姿だった。
リリーはカルトン共和国の人に会ったことがないが、1年の大半が寒季で日照も少ないという共和国の方の特徴的な風貌だったのではないかと思う。
しかも確か、彼の発音には聞き慣れないイントネーションが含まれていたはずだ。
「あぁ、俺も今あいつのことを考えていた。
あいつは確かに、最近入った奴だった」
リリーが彼のことを聞いてみると、隊長も同意を示す。
「うちは、実力主義の兵団だ。貴族とか平民とか、外国からの移民だとかの出自にこだわらない。
見た目は変わった奴だったが、剣の腕は結構良くて、戦力になりそうだったから2月前に雇い入れたんだ」
ロカ隊長が拳で膝を叩いた。




