205.カルトン共和国の急襲②
リリーとジェイバー、エルム王子、オリバー様と公爵家所属騎士団一行は、今回は馬車でなく全員単騎で北の砦に急行した。
こんな時のために乗馬の練習をしていて良かったと、リリーは心底思った。
砦の皆のことだから、多分大丈夫だと思ってはいるが、なぜか止まらない胸騒ぎが、リリーを焦らせる。
ジェイバーも同じなのか、いつになく動揺が表情に出ていた。
※ ※ ※
リリー達が北の砦についた時、中はほぼ壊滅状態だった。
誰も立っている者は無く、皆力無く地に伏せていた。
中もかなり荒らされている。
「どうして…!!」
「これは…」
リリーとエルム王子は予想外の状況に絶句した。
たくさんの兵士が倒れているのに、その中に敵兵が一人もいない事から、一方的な戦況が伺える。
王国きっての腕利き兵団が、こうもボロボロになっているとは、思ってもみなかったのだ。
もし戦闘真っ只中なら、援護に加わろうと思っていたぐらいだ。
すぐさま、エルム王子とオリバー様は、残党が残っていないか、砦の中の探索を始めた。
敵兵の行方は気になるが、まずは負傷者の手当が先だ。
リリーは連れてきた騎士達に、重症者の選別方法を伝える。
①心拍の確認
→手首で脈をとり、脈が触れないか、あるいは異常に小さい者がいれば、鐘を鳴らすこと
→問題なく打っていれば②へ
②呼吸の確認
鼻の位置から胸を見て、胸の動きを確認する
→息をしていないか、あるいは異常に浅い者がいれば、鐘を鳴らすこと
→問題なく膨らんでいれば③へ
③流している血の量を確認する
→傷から今もたくさんの血が流れている者がいれば、鐘を鳴らすこと
→血が止まっている、あるいは流れている血が少ない者は④へ
④骨が折れていないかを確認する
→腫れたり痛みがある場所の動きが異常かを確認し、折れていそうであれば鐘を鳴らすこと
①〜④全て問題なければ、その者は生命的危険が低いため、優先順位を下げ、重症者から手当を開始することになる。
これを50人の騎士に命じ、手分けをして砦中を回った。
砦の中のあちらこちから、重症者の存在を知らせる鐘の音が響く。
リリーとジェイバーは包帯や添え木、止血や造血、化膿止めの煎じ薬や軟膏を持って走り回った。
結果、傷が深く、多くの血を流して動けない者や、骨折をしている者はいたが、幸い絶命している者はいなかった。
国力や兵力では王国が格段に上なのだ。
多分、砦の攻略に時間をかけるつもりはなかったのだろう。
兵士達をとりあえず適当に動けなくさせて、王国の迎撃準備が整う前に、次の地へ早く進みたかったに違いない。
奇襲攻撃は速さが命だ。
理由はどうあれ、死者がいなかったことを神に感謝しながら、リリーは軽症者の手当を始めた。




