204.カルトン共和国の急襲①
空がようやく白み始め、光がまだ地に届かない明朝に、馬の蹄と嘶きを響かせて、かの国から軍隊がやってきた。
夜勤と日勤の交代まではまだ時間があり、各所は2人ずつで守っている時間だった。
昨夜から冬の寒さに身体を凍らせ、何時間もその場所で見張りをしていた兵士は、身体がすぐに動かない。
しかも、人間2人対軍隊では叶うわけがない。
国境警備の兵士は、剣で戦うまでもなく馬の隊列に跳ね飛ばされ、要所は突破されてしまった。
軍隊はそのまま、まっすぐ砦に向かったようだ。
要所から砦までは馬なら10分足らずで着く場所だ。
そこには更に多くの兵士がいるから、きっと食い止めてくれる。
頬に触れている冷たい土の感触に、かろうじて意識を保っていた兵士は、地面から身体を起こせないまま目を閉じた。
※ ※ ※
「「「敵襲〜〜〜〜〜〜〜!!!」」」
「「「敵襲です!!!」」」
カンカンカンカン カンカンカンカン!!!!!
日の出の光とともに、北東の山の方角から土埃が見える。
砦の見張り塔でいち早く異変に気づいた兵士は緊急警報を鳴らした。
土埃の後には、まるで長いムカデのように、黒い大群が列をなしている。
砦への到達は、あと数分といった所だ。
隊長に直接報告をするため、見張りの一人が階段を駆け下りて伝令を急ぎ、もう一人は迎え撃つ準備の指示を出しに行った。
最後の一人は、決して目を逸らさず、ムカデの隊列が向かう先を凝視して追う。
緊急を知らせる鐘の大音が響き、2分で支度をした兵士達は、愛馬に鞍をつける為、馬舎に急いだ。
「「「 これは…っ 」」」
いつもなら、見事な毛並みの軍馬が並ぶ美しい馬舎に、馬の姿は無い。
壁にかかっているはずの鞍は地面にばら撒かれ、馬に踏み荒らされて割れてしまっている。
「隊長…! ぶ、武器庫が…!!」
武器庫を確認しにいった兵士が、青ざめ、震えた声で報告をする。
綺麗に研がれたたくさんの武器が整然と並ぶ武器庫に、何も残っていないのだ。
皆、勿論普段から何があっても良いよう剣を身につけているが、その剣はベストコンディションのものばかりではない。
有事には、実践用の剣に持ち替える者がほとんどだった。
武器庫の武器は、定期的に研磨、打ち直しなどのメンテナンスを行っている。
その武器が、ひとつ残らず消えていた。
もう一刻の猶予もない。
隊長の背に、冷たい感触がつたう。
伝令用の早馬は、軍馬と違う場所に繋いである。
幸い、そちらの馬舎は無事だった。
兵士に援軍の要請と緊急避難指示を言付け、王都や近隣の領主に向かって走らせた。




