203.冬の異変②
真っ先に急襲を受けたのは、北の砦だった。
砦から緊急伝令が各地に走らされ、王都にいた公爵父や王に、共和国からの侵攻が伝えられた。
そして父等からリリーと王子に早馬が出されたのだった。
「今、公爵邸周辺には、動ける騎士は何人いるの!?」
リリーがジェイバーに聞く。
「非番の奴も含めたら、50人ぐらいだと思います」
北の街や公爵邸の警備のための騎士だから、実戦経験はほとんどない。だが、何かの役に立つかもしれない。
「かき集めて!! 砦に向かうわ!!」
ジェイバーに指示を出し、リリーも騎士服に着替えるため部屋に走った。
※ ※ ※
「こっちだ!!」
「皆、最低限の物を持って移動しろ!」
「急げ!!」
「ひとり暮らしの高齢の者は、各村長が確認しに行け」
「動ける奴は病人の搬送を!!」
ルーフス子爵家領でも緊急伝令を受け、朝から皆慌ただしく避難を始めていた。
クルール王国の北にカルトン共和国が位置しているが、国で一番北端にあり国境に接しているのが、ルーフス子爵家領と、ディアマン公爵家領だ。
ディアマン公爵家の国境帯には要塞、北の砦があり、護りは強固として知られている。
だから、10年前の開戦の時は敵がそこを避け、ジェイバーの生家であるルーフス子爵家領側から攻めてきた。
農耕を中心に生計をたてる穏やかな領地は、突然の混乱と恐怖に叩き落とされた。
その時のことは、勿論ジェイバーもだし、父だった領主のゼファーも忘れていない。
終戦後、ジェイバーは公爵家私兵に入団して自分を鍛え、戦力を培うことを選んだ。
ゼファーは、戦えば必ず犠牲が出るから、領民を一人でも多く助け、逃げられるよう、森の奥に秘密の避難所を建設することに心血を注いだ。
今は、領民をその避難所に全力で誘導している所だ。
父、弟、母は各村長に伝令を送り、必死で領民の誘導にあたっている。
今回は砦からの侵攻だったため、敵はまだ子爵家領まで来ていない。
砦で食い止められたら、あるいは早く逃げられれば無血で乗り切れるかもしれない。
焦らないよう、落ち着いて…
逸る心を抑えて、ゼファーは再び声を張り上げた。
※ ※ ※
「うわぁぁぁぁ」
「がっ…!」
「このっ!!」
「どうして…!!!」
「うあっ!!」
北の砦では、悲惨な戦いが繰り広げられていた。
「ハハハハハ!! 何だ、全く相手にもならん!
なぜ前回はこんな弱小国に負けたのだろうな!」
兵士達は必死で敵兵に飛びかかるが、笑いが止まらない敵将から無慈悲に切り捨てられる。
なぜなら、敵が攻めてきた日。
戦闘準備にかかった兵士が見た、絶望的な状況。
何者かによって馬が放され、鞍は壊され、武器が持ち去られていたのだった。




