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198.秋の実り⑦

「「「エルム王子殿、ようこそ、お越し下さいました!!!」」」



砦に着くと、横一列に並んだ兵士達が敬礼をして待ち構えていた。


おー…



さすが、王子が一緒だと待遇がだいぶ違うようだ。

いつかリリーと盛大にモメたロカ隊長も、精悍な顔つきで王子を見つめている。

(いつもはリリーを小馬鹿にした顔をしている)



「このような歓迎、どうもありがとう。

ただ、今日は公務でなく、休暇を使って公爵家私兵の皆様の普段の練習を少し見学させてもらうだけだから、あまり畏まらないでほしい」


王子が言うが、皆はまた「ハッ!」と居住まいを正した。




「リリーお嬢様も、お久しぶりです」

ひとしきり、王子への挨拶が終わり、皆は持ち場に戻っていく中、何人かの兵士がリリーに駆け寄ってきた。



リリーはあの件から時々、彼らの練習を抜き打ちで視察したり、時には混じって鍛錬に打ち込んでいたので、若い兵士を中心にファンが多いのだ。



「本当、お久しぶりね。今日はお菓子を焼いたので持ってきたの。たくさんあるから、午前の鍛錬が終わったら、皆で食べましょう」


「本当ですか!? 最近は食料の節約でいつも腹ペコなんです。しかも、甘いものはなかなか手に入らないので嬉しいです! 鍛錬も頑張ります!」


男所帯の砦だから、酒やつまみはよく差し入れられるが、お菓子はあまり届かないのだそうだ。


スキップせんばかりに喜び走り去った兵士を見送りながら、持ってきて良かったなと思った。




「じゃ、リリー、早速行こうか」



王子に促され、まずは砦の中の部屋や場所を案内する。

何のための部屋で、何が置いてあるか。

王子はなるほどなるほどと頷きながら、興味深げに武具や設備を見物した。



一通り案内を終えて訓練場に進む。


警備は4時間で交代だ。集中力を欠かないため、リリーがそう決めた。

それまでは、2交代制で、一人が12時間、持ち場につきっぱなしだったのだ。

今国境や砦の警備にあたっていないものは鍛錬や雑務、身体のメンテナンスにあたる。



訓練場では、兵士は基礎トレーニングを行っている所だった。

ストレッチとウォーミングアップの軽いレジスタンストレーニングだ。

各々のペースで身体を解し、温める。


その後は素振りだ。 

これは2人ペアで行う。

片方が素振りをし、片方はそれを見て分析する。

分析する方は相手の動きを見て、癖を掴むのだ。

動きが硬い所や、左右差、捻り撓りにくさがある所、それらに気付いたら相手に教え、教えられた方はストレッチや筋トレで改善を図る。

見る方の洞察力を磨き、剣を振る方の身体の弱点を減らす一石二鳥の方法だ。



「なるほど…」


王子とオリバー様はその様子を感心して見ていた。


リリーも、皆が順調にメニューをこなしている姿に満足しながら様子を見ていたが、どこかから聞こえた声に、かすかな違和感を感じた。


…?



もう一度聞こうと耳を澄ましてみるが、訓練場に響く多くの兵士の怒号や合図に掻き消され、確かめることはできなかった。



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