192.秋の実り①
山々が紅葉し、美しい季節になった。
肌に触れる空気も、だいぶ冷たくなっている。
「困ったな…」
執務室で、各地からの税収や報告書に目を通した王子は、溜め息をついた。
今年はなぜか秋の実りが悪く、多くの食料の価格が高騰しているのだ。
クルール王国の主食である小麦もじゃがいもも、とにかく穀類を中心に軒並み不作だった。
この件について、エルム王子や各部署長の重鎮貴族による御前会議が開かれ、緊急対策が話し合われた。
決まったことは、まず国庫から備蓄を放出し、平民に配給をすること。
次に、各地の領主や貴族にも協力を要請し、領民が飢えることのないよう布令を出すことだ。
一部のがめつい系貴族は嫌な顔をするだろうが、何も金銀財宝を差し出せというのではない。食料の価格高騰を抑えるための農家助成や、備蓄の分配などの依頼だと説得をすれば、多分渋々でも納得するだろう。
しかし備蓄は永遠にあるわけではない。
不作が続けばそれすら底をついてしまう。
他国の状況を調べた所、パレット王国は特段農作物に困っておらず、余裕があるようだった。
特にさつまいもが豊作のようだ。
交渉した所、パレット王国からの食物輸入が確保できたので、餓死者までは出さずに済みそうだった。
※ ※ ※
「良かった。ひとまず何とかなって」
今日は月一のお茶会の日だった。
近頃の原因不明の農作物の不作事変はリリーの耳にも届いており、心配していたので、エルム王子が進捗状況を話してくれたのだ。
「本当に。このままでは冬を越せないかと心配しました」
リリーはほっと胸をなで下ろした。
「かなり安価に譲って貰えることになった"さつまいも"は、この国には馴染みが無いが、どんな芋なのだろう?」
とエルム王子が聞くので、
「そうなんですか!? さつまいも、ご存知ありません?」
逆にリリーが驚いた。
「聞いたことはあるが、食べたことまではないな。
向こうでも、どちらかというと平民が好んで食べるもので、あまり王族や貴族は食べないと聞いている。
ただ、少量でも腹に溜まるしとても栄養があるとかで、このような時には重宝するらしい」
まるで、どこかのマンガで読んだ、仙豆のような扱いだ。
「さつまいも、私はとっても好きです。
というか、女子はだいたい好きな味ですわ(当社比)」
「へー。そうなんだ。リリーが言うのなら間違いないね。安心したよ」
王子はカップに残った紅茶を飲み干した。
「今度、いくつか手に入ったら、お菓子か何かを作って差し上げますね」
「えぇっ!?リリーが作ってくれるの!? 嬉しいな」
王子が笑顔全開で微笑むので、さすがにリリーも照れてしまう。
「味は保証しませんけど」
少し目を伏せて、言った。
それからしばらく雑談をして休憩をとると、
「じゃ、腹ごなしの運動でもするかな!」
王子が立ち上がり、それにリリーも続いた。
最近は、お茶会の後に、何となく手合わせや模擬試合をするのが習慣化している。
今日は久しぶりに、王子の側仕えのオリバー様も一緒だ。
総当たりなら、12戦か…
リリーは張り切って着替えに向かった。




