191.熱病その後④
「わぁぁ! すごい」
箱に入ったたくさんの粘着テープを見て、リリーは歓声を上げた。
去年、王子と初めてのお出かけをした時に寄ったお店で、リボンとテープを何種類か買ったことを思い出す。
リボンは何回か役に立ったが、テープはリリーが考えていたより質が悪く(リリーの思考が現代日本基準だったため)、実用性が低かったのだ。
これだけ種類があれば、リリーが目指す目的を達せられるものがあるだろう。
「ロセウスさん、ありがとうございます!
すごく嬉しいです! 余計な積み荷を増やしてしまって申し訳なかったのですが、お陰で素敵なお品を手に入れられました」
リリーが御礼を言うと、ロセウス氏は
「なんのなんの! こんなくらい、御礼のうちに入りません。いつでも申し付けて下さい!」
と破顔してから、
「して、こちらの品は何に使うのですか?」
箱には大量のテープと謎の部品が入っていたが、硬いが金属でなく、ぐにょぐにょした部品の方を不思議そうに掴んだ。
「これは"ゴムの木"の樹液から作った色んな部品です。
まだ、どう適用するかは決めていませんが、馬車のサスペンションに使ったり、車輪をタイヤにしたりしたいなと思っています!」
リリーが言えば、
「さすぺんしょん…? たいや??」
聞き慣れない単語に目を白黒させている。
「もう、王都と領地の往復を馬車で何度もしましたが、かなり体中が痛くなるのです。
前提として道の舗装は必要ですが、まずは馬車の衝撃吸収が必要かと思います。
この部品を使って、試しに公爵家の馬車を作らせてみようかなと」
「なるほど! この妙な弾力が、地面からの突き上げを緩和してくれるんですね」
ロセウス氏はグニグニ触りながら、大小様々の部品達の使用用途を納得されたそうだ。
しばらく色々話した後、リリーは王女に御礼の手紙を書くからと伝え、ロセウス氏と別れた。
リリーは一人になってからおもむろにテープを取り出し、指で切ってみる。
刃物がないと切れないもの、手でビリッと切れるもの切れないもの、粘着力の強いもの弱めのもの、伸縮性のあるものないもの、など種類は様々であった。
リリーも詳しくは知らないが、パレット王国にはゴムの木の種類が豊富で、それを使った粘着テープがたくさんあるらしいのだ。
粘着剤として使われている天然ゴムの種類や合わせてある紙で、切れ方や粘着力が違うようだ。
ピッ ぺた
ビリリ ✕
ビリ… ✕
ピリッ ぺた
リリーはとりあえず、手でしっかり切れるものと刃物が必要なものに分けた。
そして手で綺麗に切れるテープの切れ端を、腕の内側に貼り付る。
この作業はまだまだ続く。
結局、80個あったテープの中で刃物を使わずに気味良く手で切れたテープが14種類、さらに腕に貼って半日過ごしてみて齧れたり痒くならなかったテープはその半分の8種類という結果になった。
太さや色、伸縮性が様々な8種類20本の選抜テープを他のテープと別にしてしまいこんだ。
そしてアン王女には、無事にプレゼントを受け取り、大変喜んでいるという感謝のお手紙を書いた。
また、パレット王国から苦労して持ち込んだものの、気候の違いから根付くか若干微妙だった月桃が、きちんと植え替えが成功して花が咲いたことも書き加えた。
ちなみに月桃は高い抗菌力と防腐作用があり、去痰作用、気管支炎や鼻炎改善、滋養強壮などの薬効があること、こちらはアルコール抽出ではなくオイル抽出が良いらしいことを追記した。
今後、当国でも重宝されると思います。お譲り頂いて、ありがとうございましたと文末を締めた。
後日パレット王国からはクルール王国に珍しい果物や鉱物がたくさん届き、今後も末永く友好国であろうと王様同士も書簡を交わしたらしかった。




