189.熱病その後②
あれから半年が経過した。
結論として、パレット王国との交渉はかなり順調に進んだ。
まず、王女様方が、はるばる王子の誕生日パーティーへ参加して下さった御礼としてクルール王国が送る返礼品の中に、熱病薬を100本用意してもらった。
事前に、今回の件の顛末は手紙で王女には伝えていたから、それらは比較的すぐに患者さんの手元に届いたようだ。
混ざり物のアルコールでなくちゃんと無色透明なお酒で抽出していたから、薬は綺麗な黄緑色だった。
臭いだけは異常だったが、あまり抵抗無く服用してくれたらしい。
効果は絶大で、すぐに交易の申し出があったそうだ。
ハルディン子爵夫妻は、王様から打診された薬草事業を二つ返事で了承し、手塩にかけた草花が人々の健康に役立つことを喜び、またクソニンジンの精製による外貨収入試算によって、領地経営は持ち直しそうとのことだ。
ピンゼル様おすすめの薬草図鑑を王国でも輸入し、薬草特性に応じてお湯で煎じたり、アルコール抽出をしたり、親油性の高い植物はオイル抽出をしたりと、いろんなハーブ薬を作れるようになっている。
整腸作用、安眠作用、去痰抑咳など、様々な薬効を求めて王都からもお客さんがたくさん買いに来ているらしい。
最近は、王都で別の仕事をしている息子が時々手伝いに来てくれているの!と、夫人が嬉しそうに報告してくれた。
ところで、クソニンジンを提供してくれたジャスプ子爵は、お酒が大好きな陽気なおじさまだったが、その領地の収入源もまた、実は酒造だった。
クソニンジン以外でも、薬効抽出にアルコールが必要な薬草は多い。
より効率的にするため、度数の高いアルコール(エタノールに近いもの)を作るべく、ジャスプ子爵家では原材料から見直してアルコール精製の研究を始めたようだ。
そのアルコールをハルディン夫妻が仕入れて色んな薬を作れており、夫妻とジャスプ子爵は仲良く協力して事業を行っているようだ。
本当に良かった。
※ ※ ※
リリーは王子の誕生日の1ヶ月後が誕生日だったので、落ち着く間もなく、慌ただしい中で誕生日会を開いた。
お父様、お兄様、マルグリット先生やシエル様、スカーレット様、アズール先生、ヴィオラさん… 勿論エルム王子も… など、お世話になっているたくさんの人がお祝いをしてくれた。
さすがにピンゼル様は来れなかった。
代わりにお手紙が届き、本当は無理をしてでもお祝いに駆けつけたかったことと、クルール王国から贈られた御礼の品々が莫大で、資金が潤沢に集まったため留学の話が急ピッチで進んだことが書かれていた。
3ヵ月を準備期間として先月、とうとう東の医学大国である、唐国に旅立たれた。
マティータ大公の奥様は大号泣だったらしい。
手紙で交流を続けているトゥシュカ様から教えて貰った。
今頃は慣れない異国で苦労していないか、自称お姉ちゃんとしては気になる。
けれど、立派に育って帰り、大陸の医学レベルを上げてくれることは確定なので、頼もしく、リリーも負けないように頑張ろうと気合いを入れた。




