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187.アノフェレス熱病の薬⑧

「旦那の熱が下がりました!」

「息子がパン粥を食べられました」

「頭痛が嘘のようになくなったと言っています」



朝から北の砦には、ロセウス商会の船員や出入りの商人から届く吉報で賑わった。


ローレンス(リリー父)は昨日リリーから受けた報告を思い出しながら、リリー達が考えて行動した結果の功績に唸った。



さらに、薬瓶の配布による熱病の緩解と並行して行っていた、船に残る諸悪の根源と想定されるアノフェレスの殺虫結果についても確認させ、もう貨物室に飛んでいる虫がいないとの報告を受ける。



今回のことが収束したら、この素晴らしい成果についてどう取り扱うべきか… 

公子と他国が深く関わっている以上、一領地の問題として片付けることはできない。

王に奏上しなくては、と思った。



半日空けてもう1瓶飲み、症状が出なければ治療は終了と公子は言っていた。

まずはこの熱病騒ぎの収束のために尽力すべきだ。

ガチガチになった首と肩をひと鳴らしし、現在症状の残る者の一覧に目を通した。





※  ※  ※




「此度の、北の領地の熱病蔓延と経過報告について、報告をしてもらおうか」


後日、ローレンスとリリーとピンゼル様は、王と王妃様の御前に呼び出された。


「はい。恐れながら、私よりご報告させて頂きます」


ピンゼル様が立ち上がってお辞儀をし、王が頷くのを確認してから、説明を始めた。



「まず、この熱病は、人から人に移りません。

暖かい国や地域には、アノフェレスという虫がおり、それらは人の血を吸います。

針で刺して血を吸いますが、蜂などよりも針がとても細いので、刺されたことに気づかない人が多いです。


この虫が病を運んでおり、刺されることで病にかかります。

この虫による熱病には特徴があり、数日周期で熱が出たり引いたりし、頭痛を伴うことです。


病には、よく効く薬草がいくつかあり、今回はジャスプ子爵家領に自生していたクソニンジンを許可を得て採取、アルコール抽出をしました。

アルコールは熱で飛ばしてこの薬瓶に詰め、配布しました。

幸い明らかな副作用もなく効果が得られ、現在全員が回復しています。


しかし、この病の怖い所は、媒介する虫が生きている限り、刺されると被害者が増えることです。


今回は月桃サンニンという花をパレット王国で輸入する際、移植を目的としたために、切り花ではなく土根も一緒に王国に持ち込まれました。

その土や葉、花に、蚊がついてきてしまったと考えられます。


症状が早く出た人は、月桃をパレット王国で採掘した時に刺された船員で、次に症状が出た人は、船の中についてきた蚊に刺された船員とロセウス氏、更にその後しばらくして症状が出たのは、クルール王国に着いてから積み荷の確認や商談で貨物室に入り、花や葉についていた蚊に刺された商人やロセウス商会の社員さん達だと思います。

時間差で病が広がったことで、あたかも人から移って広がる伝染病のように捉えられたのではないでしょうか。

こちらは、対蚊殺虫剤を作って貨物室を燻煙し、既に死滅させています。


以上が、今回の熱病の正体と対策です。」



ピンゼル様が要件を話し終わり、再びお辞儀をして王様を見つめた。



「なるほど… ううむ…

いや、見事だ。 確かに、公子の話は全て合点がいく。

この度は我が国、ひいては隣国の問題解決に尽力して頂いたこと、深く感謝申し上げる」


王様は内容の了承と、感謝の意を述べた。



「そして… これは大人の問題なのだが…

今回の熱病については、パレット王国にも報告が必要だ。そうなれば、多分この薬を欲しがる可能性が高い。

公子には難しい話かとは思うが、この情報と薬の利権について、どう考えているか、聞かせてくれないか。


公子だけでは判断を決めかねるのであれば、マティータ大公と相談されても構わない」



王様に問われる。

多分、これは莫大な金額が動く国同士の取引になる。

しかも、クソニンジンは涼しい気候で育つから、熱帯気候のパレット王国では育ちにくい。


パレット王国の難治性の熱病の薬を、クルール王国に自生する薬草を使って、マティータ公国のピンゼル様が作ったのだ。

この薬の利権は、大変難しい問題になりそうだった。



ただ、ピンゼル様は既にこの疑義を事前に想定していたようで、すぐに口を開いた。



「この薬の作り方や情報、精製の利権は、今後クルール王国に全権を差し上げたいと思っています」



「それは誠か」


王様は驚いたように目を見開いた。



「ですが、ひとつ条件があります」


ピンゼル様は意を決して進言した。



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