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186.アノフェレス熱病の薬⑦

リリー達はしばらくティールームでアシュトン父様の様子を聞きながら待つことにした。



本来なら、容態をピンゼル様が自分で診たい所だが、仮説が間違っている可能性はゼロではないし、万一国賓に熱病を移しでもしたら国際問題なので、アシュトンに全てを託す。


アシュトンは服薬後はお父様の傍に張り付いて、少しでも様子が変わったら教えて欲しいと伝えている。

リリーは指を組んで額に当て、無事を祈った。



多分大丈夫、と思うが、もし効かなかったら…

効いたとしても、副作用が大きかったら…


リリーの頭に嫌な想像が膨らむ。

上手く行かなかったらアシュトンにも、勿論アシュトン父様にも申し訳が立たない、が… きっとピンゼル様も深く傷つくだろう。

こんな幼い子の肩に乗せてしまった責任を、今更ながら感じて怖くなった。



でも、他に手はないのだ。

アン王女も、致死率の高い病だと言っていた。

ぶっつけ本番の、ほとんど実験に近い治療だけど、神様に祈るだけで皆が死んでしまうのをただ見ているよりは、可能性に賭けたい。



目をギュッとつぶり、嫌な想像を振り切ろうとしていると、



「お嬢サンよ!!」


アシュトンの大声が階段に響いた。


リリーとピンゼル様がハッと息を飲んで見上げると、



「親父が!! さっきまでが嘘みたいにスースー寝だしたんだ! 滝のように流れてた汗も止まったよ!!」



「よ…  


 良かったよぉぉぉ」


リリーは思わず涙を零してピンゼル様に抱きついた。


「リリぃぃ〜〜〜」


ピンゼル様も泣いている。

肩も手も震えていて、やっぱりリリーと同じように、もしかしたらそれ以上に不安だったのだ。


「ありがどぉぅぉぅぅ」


アシュトンも加わり、3人で抱き合って泣いた。




それからしばらく経過を見たが、頭痛と熱で昨日から寝られていなかったアシュトン父様は安らかな顔で寝ているらしく、変わりはなかった。



「本当に、何と御礼を言って良いか…」


お昼過ぎに、アシュトンの母様からも御礼を言われた。

アシュトンと母様は交互に看病にあたっていたが、過労から寝込んでしまい、ここ数日はアシュトンだけで父様を診ていたそうだ。


お父様の容態が好転したと聞き、何とか起き上がって御礼を伝えに来られたようだった。



「そんな…  こちらこそ、よく分からない薬を最初に飲むことを了承して頂いて、、私達を信じて頂いて、ありがとうございました。

きっと、本当は不安だったと思います」


リリーはアシュトン母様を支えながら御礼を返す。



「2週間近く前から体調を崩しているあの人を見ていましたが、熱が高くなってからはあまりに辛い様子で、苦しむ様子は見ていられませんでした。

どんどん悪くなるばかりで、最近は最悪の結果ばかり夢で見てしまうから眠れなくて、できることがあるなら何でも試してみたかったのです。本当に、良かった…

ありがとうございます、ありがとうございます… 」


アシュトン母様は涙をハンカチで押さえていて、リリーはまた、貰い泣きをすることになった。




夕方にはアシュトン父様が起きて話せるようになり、薬瓶をもう1つ渡した。

相変わらず般若の形相で飲んだそうだが、頭痛は全くなくなり、食事がとれるようになったらしい。

今は野菜たっぷりのポタージュスープを少しずつ食べていると聞いてから、リリー達はリリー父様へ報告するために、北の砦に向かった。




※  ※  ※




リリー父様は、リリー達の報告を神妙に聞いてから、


「そうか… よく頑張ったな」


そう言ってリリーの頭に大きな手を乗せ、


「公子も、こちらの領地の問題なのに、力を貸して頂いて申し訳ない」


ピンゼル様に頭を下げた。




それから、時刻は既に夜ではあったが、薬瓶を父様や兵士が手分けをして熱病で苦しむ人々や、おそらくアノフェレスに刺されているであろう潜伏期間な人に配った。



皆、その毒々しい色と有り得ない臭いに躊躇しながらも、公爵直々に配布された薬とあっては飲まない訳にはいかず、何とか喉を通したらしい。



翌朝は、それまでとは打って変わって、北の砦に、嬉しい悲鳴がたくさん届いた。



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