185.アノフェレス熱病の薬⑥
「はぁーっ さすがに、疲れたわね…」
「本当… やっと終わったね…」
リリー達は調理場の椅子にぐったり座り込んだ。
昨日も今日も強行軍。
相変わらず馬車も悪路で揺れて尻は痛いし、クソニンジンやらアルコールやらとにかく臭くて気分が悪いしで、全身的、精神的にもズタボロになっている。
しかし、頑張った甲斐があって、薬の小瓶は120本もできた。
「今日はもう遅いから、お薬は、明日の朝持って行きましょう」
「そうだね。お尻が限界だし」
リリーの提案に、ピンゼル様も頷いた。
この日はまだ調理場が荒れ模様なので、手の込んだ料理は作れないと相談があり、夕食はチーズフォンデュになった。
これなら、ボイル野菜や肉、パンがあれば後はセルフで作って食べるから合理的だ。ナイスベイジル。
ピンゼル様はチーズが大好きなので、パンやブロッコリーに絡めて美味しそうに食べている。
リリーは胃が弱いので、もたれやすいチーズはたくさん食べられないが、温野菜は好きだ。
甘い人参のソースをつけてゆっくり食べる。
夜は昨日と同じくやっぱり一緒に寝ることにした。
明日も朝が早い。
今日は2人とも、ベッドに入るなり秒で眠りの世界に吸い込まれていった。
※ ※ ※
翌朝、焼けたばかりのパンをバスケットに入れて貰い、早々に馬車を出した。
ほかほかのパンをちぎって食べながら、アシュトン邸を目指す。
小瓶は割れないよう、藁の詰まった木箱に並べて入れているが、整備されていない路面を馬車で走るため、カチャカチャ音がする度にリリーは心配して覗き込んだ。
その甲斐あってか、何とかひとつも割れずにアシュトン邸に到着できた。
門番さんにアシュトンを呼んでもらうと、昨日と同じ服のアシュトンが、髪もぼさぼさのまま現れた。
「おはよう、アシュトン。ひどい顔だけど、お父様が悪いの?」
「ああ。昨日の夜からまた熱が出始めて、頭を抱えて転がりまわってるんだ。酷く痛むらしい。何とかしてやりたいが、何もできん」
かなり辛そうな父様の話を聞いて、やはりこの熱は周期的に上がったり下がったりするのだと思った。3日熱マラリアに近い病態だ。
「アシュトン。これは、この病気に効く薬草で作ったシロップよ。お父様に飲ませて欲しいの」
「これが、昨日お嬢サンが言ってた"薬"ってやつか。
…それにしてもスゲェ色だな」
茶色と緑の混合液は、少し蜂蜜を加えて飲みやすくしている。
キュポッ
アシュトンがコルク栓を抜くと、あたりにプワンと臭気が舞い上がった。
「こりゃまた… 嗅いだことねぇ臭いだな。
大丈夫なのか?」
アシュトンは心配したが、リリーは自信を持ってオススメする。
「配合と割合はピンゼル様が計算されていますし、煮沸していますので安心です!」(バイキンはいません)
「分かった。お嬢サンが太鼓判を押すなら、大丈夫なんだろう。親父に飲ませてみるよ」
アシュトンについて邸宅に入り、ティールームに通された。
そこで、ピンゼル様と待つことにした。
しばらくすると、アシュトンが2階から降りてきた。
「何とか飲ませたけど、ものすごい顔、してたぜ」
蜂蜜は飲みやすさのために入れたが、逆効果だったかもしれない。甘臭いクソニンジンエキスは、舌にまとわりつくような嫌な感じがするそうだ。(アシュトン父様談)
あとは、薬が効いてくれるのを待つばかりだ。




