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181.アノフェレス熱病の薬②

作業場は、公爵邸のキッチンだ。


今日ばかりは、ロータスも、カシアもマリーも、もちろんジェイバーも総出で作業を行う。



「よし! 始めましょう!」


皆、捨てられる服を着てくるよう伝えてあるので、比較的古い服を着ている。


リリー父には、王城を出る時に伝令を飛ばしており、とりあえず材料が揃えば作ってみるよう許可を得ていた。

ロータスに聞いた所、アシュトン父様は、あれからまだ熱は上がっていないらしいが、倦怠感が強くなり、食事はとれていないそうだ。

急がないと、衰弱してしまう。



キッチンの手前の部屋には、多種多様の酒が集められていた。

ピンゼル様からの依頼で、なるべく度数の高い酒を、砦の兵士やアシュトン邸倉庫から譲り受けたり、商人から買い入れたりしてたくさん集めた。



以前扱ったアカネカズラは、乾燥させた根を熱湯で煮出して煎じることで主に色素や薬効を抽出する。


クソニンジンは、水や湯との相性があまり良くなく、アルコールと親和性が高いらしい。

アルコール抽出を行うにあたっては、なるべく強い酒である必要があるそうだ。



大きなたらいに、芋や麦など穀類から作られた酒をドバドバ入れていく。

ピンゼル様曰く、ウォッカが一番良いのだそうだ。

多分、度数様々だし酒の原料次第で出来栄えが違うかもだが、今は細かく調べる時間がないので全部ちゃんぽんする。



アカネカズラの色素や薬効は根に集中しているが、クソニンジンはお手軽なことに、根も茎も葉も全てに薬効が含まれる。

アルコールの中にたくさん成分が出るよう、まずはクソニンジンをなるべく細かく粉砕することが必要だ。



皆は一心に包丁で茎をみじん切りにしたり、リリーやピンゼル様は葉をちぎって細かくし、お酒の入った盥に次々と入れていく。



あぁっ…  ミキサーが欲しい…!


リリーは前の世界がいかに便利だったかを痛感した。



「これはっ…」

「うぐ… 」

「想像以上だわ…」

「なんか、目にまで染みる」


クソニンジンの臭いは糞便のようであり、しかも狸の体臭にも似ていると言われており、公爵邸の面々は次々とダメージを負い始めている。


しかし領地の一大事。

臭いくらいで作業は止まらない。


リリーとピンゼル様は昨日からこの臭気と隣り合わせだったせいで、さほど気にならなくなってきている。

慣れって怖い。



6人でかかれば1時間弱で刻み終わり、全ての粉砕クソニンジンをアルコールに漬け込むことができた。

最低半日は漬けこむ必要があるため、盥に蓋を被せ、一旦作業は中断する。



しかし仕事はまだ山積みだ。



「すみませんが、ヨモギ、松、杉、茅の青葉を集めておいて下さいませんか」


ピンゼル様からの依頼で、手すきの騎士達がこれらを公爵家横の森で集めることになった。

クソニンジンと違ってどこにでもある草木なのと、あまり量はいらないようだったので、すぐに集めることができるはずだ。



その間にリリー達は湯浴みと着替えを済ませ、出掛ける準備をする。

昼前には用意が整ったので、騎士が集めた草木の入った袋を持って馬車に乗り込む。

クソニンジンを運搬した馬車はしばらく使い物にならないので、また違う馬車だった。

もうすぐ昼時だからと、ベイジルが、お弁当まで用意してくれている。


「厨房が、ものすごい死臭に満ちているんです…」


ベイジルが涙を浮かべてバスケットを手渡してくれた。

彼が愛してやまないキッチンの惨事に心を痛めつつ、御礼を言って本邸を離れた。


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