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180.アノフェレス熱病の薬①

本邸に着いたのは、時間にして20時過ぎくらいだった。

リリーだけでなく、ピンゼル様も馬車酔いでぐったりしている。


ふらふらとした足取りで馬車から降りる。


「リリー様!!!」



昼間に急に一瞬戻ってきた(酒を奪取するため)と思ったらとんぼ帰りにどこかへ出掛け、夜深くなって帰ってきた(しかも今度は知らない男の子連れ)とあって、リリーの破天荒ぶりには慣れているはずの本邸メンバーもさすがに驚いていた。


心配していたマリーが駆け寄り、嗅いだことのない異臭に戸惑う。



「ごめんなさいね。この臭いには事情があって… うっ…

 あ、こちらは、ラピス公国の第3公子のピンゼル様です。

件の病のお薬を作って下さるために、一緒に来て頂きました。今日は我が家にお泊めしますので、支度をお願いします」


リリーが吐き気を抑えて紹介すると、


「はじめまして。ピンゼルです。リリーさんにはとてもお世話になったので、僕にお手伝いできることがあるなら、ぜひ役に立てて下さい」


ピンゼル様も真っ白な顔で額に汗を滲ませて挨拶と礼をする。


「まぁ! 公国の! さすが、大国の公子はお小さくてもしっかりしていらっしゃいますね!

お部屋をご用意しますので、今しばらくお待ち下さい」


カシアはすっかりピンゼル様の仔猫フェイスに射止められた様子。

カシアとジニアは子供にめっぽう弱いのだ。



「お嬢様、とりあえずは湯浴みをなさいますか?

その間に、晩餐の準備を致します」


ロータスの提案にリリーは頷き、マリーはその旨を伝達するため、厨房まで急いで走っていった。



「ジェイバー」

ロータスはとりあえず、事情聴取のためにジェイバーを連れて行った。

クソニンジンをちゃんと薬にするために必要な材料は、ピンゼル様がジェイバーに教えていた。

ロータスにも伝えてくれるはずで、明日の作業開始までに揃えてくれるだろう。

しばらくしてリリーとピンゼル様は浴場へ呼ばれ、体に染み付いた臭いを濯ぐことにした。




本邸自慢の浴場で身体を温め、ベイジル自慢の自家菜園のポトフでひと息をついた。

良かった… スペアリブとかだったらヤバかった。


ピンゼル様のために設えられた部屋を案内をしたが、リリーが自室に戻るために離れようとした時、ピンゼル様が一瞬不安そうな表情を見せた。




「ピンゼル様、今日は一緒に寝ますか?」


「えっ!!良いの? ヤッター!!」

ピンゼル様は両手を上げて喜んだ。

部屋を整えてくれたカシアとマリーには申し訳ないが、今日はリリーの部屋で一緒に寝ることにした。



さすがに、半日の行程としては強行軍だったし、知らない人や土地とたくさん触れ合ったピンゼル様は、緊張も強く、知らず知らずに無理をさせていたようだ。

その上、夜まで知らない場所で1人というのはさすがに酷だと思った。

ピンゼル様に柔らかい布団をかけ、お腹の上を優しく何度かポンポンと撫でると、すぐに寝息をたて始めた。

二宮金次郎も真っ青な、薬草に関してズバ抜けた知識を持つピンゼル様だが、まだ齢7歳の、可愛い子供なのだ。


リリーも、すぐに意識は吸い込まれていった。





翌朝。

陽が登りかけたいつもの時間に、リリーはピシャッと起きた。

馬車酔いは完治し、お腹もペコペコだ。

ピンゼル様もほぼ同じ様相だったので、部屋に朝食を持ってきて貰い、2人で気兼ねなくゆっくり食べた。

そして動きやすい作業着に着替え、今日の作業を始めることにした。

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