18.SIDE ジェイバー②
ひととおり略奪を終えた敵兵団は、夜の移動を諦めて野営を始めた。
朝になったら移動を始めるはず。
崖の下を通ったら、絶対やってやると思った。
崖の上には父が待機している。
俺は敵兵の様子を木陰から確認して、動き出したら早馬で父の所に知らせに行く役割だった。
荷物を積んだ馬よりも、俺ひとり乗せた馬が速いから、余裕を持って先回りできる。みてろ。
朝になり、日が登りかけた頃、激しい蹄と馬の嘶きが轟いた。
遠く土煙しか見えない距離でこの音ならば、かなりの数だ。どこの隊だ!?
それがディアマン公爵家の私兵団だった。
ルーフス子爵家領とディアマン公爵家領は隣り合わせに接している。
今回の侵攻もすぐに公爵家領に伝わり、国で1番近い私兵団として鎮圧に派遣されたようだった。
ディアマン公爵家の私兵団は圧倒的な強さで敵陣を蹴散らし始めた。
その中に立たれていた当主であるローレンス公爵様は後方指示でなく、まさかの最前線にいた。
俺は公爵様とは面識がないが、姿は式典などでお見かけしていて、穏やかな方だったと思っていた。
ところが公爵様は鬼気迫る表情で燃え盛る戦火の中にあって氷のような覇気をまとい、馬を駈って一直線に敵の主幹部隊に斬り込んだ。
朝日が照らす白金の髪が光り、神の加護を受けているようだった。
敵は必死に応戦し、公爵様の体に届いた刃がいくつ傷をつけても、矢が腕や足に刺さり血が流れても、公爵様は止まらなかった。
公爵様のひと太刀ごとに敵の数が減り、とうとう首領もその一閃を受けて動けなくなった。
首領は殺さず捕縛し、捕虜にすることで敵兵団の戦意を削ぎ、侵攻は終結した。
俺はそれをただ、木陰から見ていただけだった。
何もできなかった無力さと、領地領民にこれ以上の被害が出ないという安心感と、強烈な憧れが胸に残った。
全てが終わってから、父と公爵様に御礼を申し上げに行った。
そして、俺はディアマン私兵団への入団を希望し、公爵様の承認を得て騎士となった。それからは血の滲む努力をして、隊長代理を務めるようになったのだ。
まだまだこれからだ、と思っていた。
強くなり、民を守り、公爵様にご恩をお返ししていくには、もっともっと努力をして自分を高めなければならない。
なのに俺が命じられたのは、お嬢様のお守りだ。
公爵様へのご恩があるから、大切なお嬢様をお守りする仕事は栄誉だと思おうとしたが、それがこんな…
病弱と嘘をつき、誕生日に大金のかかる建物をねだり、ゴロゴロするための場所を作る子供のお世話だなんて、あんまりではないか。
俺はどうしたら良いんだ…
ジェイバーは絶望に近い心情を抱え、虚空をみつめていた。




