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179.薬草探し④

子爵家の領地は横長く、目的の場所までは馬車で10分の場所だった。


子爵が狩りをする時によくお供をする騎士を帯同させてくれたので、迷わず着くことができた。


臭い草の場所も、彼が知っているらしい。



「こちらです、リリー様、ピンゼル様」


お供の騎士、もといスピネルさんが林の中を案内してくれた。

足元は野いちごやたんぽぽがたくさんあって可愛い野の草の絨毯が続いている。

向こうの方に森と林の境目の、日当たりが良い場所が見え、どうやらそこにあるようだった。



「「ウワ〜!」」



果たしてそこには、見たことの無い、異様に背が高くてヒョロヒョロの草がたくさんあった。


おーーー!!


リリーは走り出し、草の少し手前でぐっと立ち止まった。



… くっっさい!!

これは臭いわ。

現状でこれじゃ、刈るのが思いやられる…

リリーは持ってきたハンカチを口に巻いた。


ピンゼル様は臭いが気にならないのか、何も臭気対策をせずにズンズン近づいていく。

葉の裏を見たり臭いを嗅いだりして、どうやら確かめているようだ。


幸い、クソニンジンは似て非なる草はないので、多分これで間違いない。



「リリー、これはクソニンジンだ!

 しかも、これだけたくさんあれば、だいぶ多くの薬を作ることができる!」


「本当!? 良かった!!」



リリーとピンゼル様は、手を取り合って喜び、スピネルさんとジェイバーにも手伝ってもらって片っ端から鎌で切りとった。

最終的に、彼らが両腕でやっと抱えられる太さの束が5束になり、想定外の大漁だ。

馬車に積み込む頃は、もう暗くなり始めていた。



しかも馬の背に束をくくりつけようとしたら馬が酷く暴れるので、仕方なく馬車にリリーとピンゼル様とクソニンジンをぎゅうぎゅう詰めにして乗ることになった。


リリーが馬車酔いで死んだことは、言うまでもない…





本当は、北の砦にすっ飛んでいきたかったが、ジャスプ子爵に、無事に帰着したことの報告と御礼の気持ちを伝えるため、一度子爵家に戻ることにした。


リリー達が再びレセプションルームで子爵を待っていると、



「おぉリリー様、ピンゼル君、無事で良かった。

お目当ての草は…」


見つかったかいと聞こうとして、ガフッと咳き込んだ。

鼻を覆い、


「どうやら…見つかったようだね。 

久しぶりに嗅いだけど、やっぱり酷い臭いだ」


眉を潜めてこちらを見ている。



「ジャスプ子爵様、今日は本当にありがとうございました!

スピネルさんもたくさん手伝って頂いて助かりました。

たくさん刈り取らせて頂きました。

この御恩は、必ずお返しします!」


リリーがぴょこんと頭を下げる


「いやいや、こちらこそ、公爵家のご令嬢に、全身そんな臭いをさせて申し訳ないよ。

どうせ使い道の無い臭い草が、何かの役に立つなら嬉しいよ。

まぁ、リリー様にこんな臭いをさせたとディアマン公爵に知られたら、ただじゃおかないって僕が殺られそうだけどね」



ジャスプ子爵は自らの肩を抱き、おどけて あー怖と呟いた。



「子爵、こちら、お好きなものかはわかりませんが、お土産にお酒を持ってきました」


リリーが持ってきた赤いスカーフを開くと、ぴかびかの瓶が出てきた。



「これは、ブランデーの古酒じゃないか!!

しかも、珍しい、リンゴで作られたやつだ」


ジャスプ子爵は予想以上の食いつきで、この返礼品を受け取ってくれた。

横から上から下からと、ためつすがめつじっと見つめてから、ほぅとため息を漏らした。


「今晩はこれをチビチビ楽しみながらえびとマッシュルームのアヒージョ(←好物)をつつくとするか!」


上機嫌でそう話した。




リリー達が子爵家を出る頃は、あたりがもうとっぷりと暗くなっていた。

父様だったらもうこんな夜に馬車を走らせるのはNG と言う筈だが、どこかに泊まる時間もない(しかも身体が異様に臭すぎる)ので、子爵家領から本邸までは全力で飛ばして帰った。





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