172.北の街の異変③
翌日。
リリー達が朝食を食べていると、ロータスが慌てて飛んできた。
「お嬢様、アシュトン様がお越しです!」
ロータスの慌て様から、アシュトンの様子も伺え、もしやロセウスさんに何かあったかと思い、エントランスに駆け下りた。
そこには、満面の笑みのアシュトンがいた。
「親父の熱が下ったんだ!!まだボーッとしてるけど、今は話もできるし、水も飲める!」
涙目で喜ぶアシュトンを見て、どちらかと言うと最悪の結果を想像していたリリーは一気に肩の力が抜け、座り込んでしまった。
「大丈夫かい、お嬢サン!」
アシュトンに助け起こされ、震える足で立ち上がる。
「ええ、大丈夫よ。本当に良かったわね」
「リリーお嬢サンが見舞いにきてくれたからかもしれん!
本当にありがとう!」
アシュトンは感激屋なのか、何度も御礼を言って、公爵家を後にした。
リリー達は、ホッとして、朝食の続きをゆっくりとった。
そして出掛ける支度をすると、北の砦に泊まっている父様に、ロセウスさんの回復を伝えようと、馬を走らせた。
「リリー!!」
リリーが砦に現れて、父様はとても驚いていた。
「なぜこんな所に… まさか伝染病を何とかしようと思ったんじゃないだろうな」
ちょっとお怒りモードでリリーに向き直る。
リリーは説教の前にと、慌ててロセウスさんについて報告をした。
てっきり父様も喜んでくれるかと思ったが、話を聞いた父様は、少し頷くと、しばらく考えてから暗いままの表情で、言葉を落とした。
「リリー、ロセウス氏が熱を出す前に、熱が出た船員がいるのだ。
その船員も高い熱と嘔吐に苦しんだが、3日めにようやく熱が下った。治ったと喜んでいたのに、翌日はまた熱が出て、今も臥せっている」
「それは…」
「この病は、熱を繰り返す可能性があり、ロセウス氏も同じ症状に陥るかもしれない。
今は熱が下がったとしても、まだ油断はできないようだ」
「 … 」
リリーは絶句した。
そんな症状の病気、全く心当たりがない。
そうなると、病気よりも、食べ物とかの方が怪しい。
貿易船だから、輸入した、食べ慣れないものを食べたとか無いのかしら。
それなら、例えば試食した商人が体調を崩したとしても合点がいく。
今熱で苦しんでいる真っ最中の人から話を聞くことはできないから、軽い症状の人から聞き込みをする必要があるわね。
「お父様、その頃の貿易船の積み荷が何か、知っていますか? 最近体調を崩された人に、話を聞いてみたいです」
リリーがお願いするが、
「ダメだダメだ。移ったらどうする!」
リリー父は聞き入れる様子は無い。
「お父様、多分、この病は伝染病ではないのではないかと思います。
アシュトンも、アシュトンの母様も、全然移っていませんし。
それに、何らかの原因があるはずです。
それが食べ物なら、出回る前に止めなければ」
「だが… しかし… 万一…」
「お父様!! 領民を守るのが、領地を治める貴族の義務でしょう!? 皆が苦しむ状況で、私達が手を拱いていることはできないはずです!」
リリーが必死に説得する。
リリー父も、普段大人しいリリーのすごい剣幕に驚く。
また、リリーの言うことに一理ある気もしていた。
貿易船に関わる人々の間で病気は広がってはいるが、今の所、介添えをしている家族に移った例は報告されていない。
確かに食べ物は怪しい(毒キノコ等?)とも思うので、短時間ならと、しぶしぶリリーに、話を聞く許可を与えた。
「ありがとう! お父様!」
リリーは、船員の家を知っている兵士に案内され、会いに行った。
そしてそこで、体調不良を起こした人々が関わっている貿易船の積み荷について尋ねると、それは予想外のものだった。




