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169.王女と剣技の練習③

最初は普通に身体の前で打ち合う。

身体が剣の衝撃に慣れてから、次の動きを始める。

間合いをとって相手から身体を離し、踏み切って一気に距離を詰め、やや勢いをつけて切り結ぶ。

リリーがするようにアングール王女も動き、繰り返す度に強さや速さが上がっていく。


言葉で教えなくても、王女には伝わるようで、ひと呼吸後に同じ動きを返してくれる。

だんだんその間がなくなり、反射的に剣を合わせられるようになっていく。


身を翻して背中に斬りつけても難なく逃れられるし、リリーの背中も狙ってくる。


急にしゃがみこんで水平に振り切り、脛を落とす一閃も、ふわりと浮かんで躱し、逆に首を落とそうと上から袈裟斬りにされる。

首の後ろで受け止めて跳ね返し、高く飛んで空中で回る。


さすがに、王女は空中で回らないが、二人が離れたり近づいたり絡まる様子は、2匹の蝶がひらひら遊んでいるかのようだった。

まるで剣舞のように鮮やかな打ち合いは、父含め、周りの騎士も見惚れる程だった。



「剣の打ち合いは、常に血生臭く、相手をねじ伏せるためのものであって、力と技術が全てだと思っていたが、綺麗だと思ったのは初めてだ」


リリー父は感慨深げにそう評した。


その後はリリー父が実技指導を2人に施した。

リリーが気づかなかった癖や弱みを指摘され、伊達に長らく軍隊トップを張ってないなぁと思った。

言われたことに気をつけると、回りにくかった方向への身の捩り方や、剣の受け止めがとても楽になった。


「王女も、剣術が初めてとは思えない吸収速度と応用力だ。

多分、運動神経だけでなく、頭がすごく良いのだろう」

リリー父が言えば、


「本当に、アングール王女はすごいです。

色んな打ち方をしてみせたら、すぐご自分のものにされて。

しかも、昨日お会いしたばかりなのに、阿吽の呼吸というか、とっても打ちやすいのです」

リリーも同意する。



「そんな… とんでもないです。

手加減しながら段階的に教えて頂いて、頭で覚えるより身体が動く感じで理解できました。

私も、同年代でこんなに息の合う女の子は初めてです。

あ、私のことはアンとお呼び下さい」


少し息が上がっていたアン王女は、額の汗を拭いながら、元気よく言った。



それからもう少し、リリー父監修の元、剣術や組み手の練習をしていたら、ピンゼル様とエールトベール王女が戻ってきた。

王城の図書室や中庭を案内していたらしい。

お互いに今まで見聞きしたことを報告しあっていたら、急に訓練場の入り口が騒がしくなっていた。


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