167.王女と剣技の練習①
翌朝。
王女達(特にアングール王女)がリリーに剣技を習いたいそうだから来てほしいと、朝食の席で王子からお願いされた。
「君は本当に、異国の要人を虜にする人だね」
と苦笑している。
そんなの、リリーのせいではない。
リリーだって、晩餐会の翌日くらい朝寝坊してゆっくり過ごしたいのに、前回も今回も、健康的すぎるスケジュールだ。
朝食後はすぐに動きやすい服に着替えて、騎士の訓練場にお邪魔する。
前回の、ラピス公国の外遊目的の滞在と違って、今回は誕生日パーティー列席のためなので、参加者はあまり王国に長居をしない。
昨日が晩餐会だから、さすがに今日帰ることはないが、明後日の昼過ぎにはもう王国を発つらしい。
王女と過ごせる(剣技を教える)時間は有限だ。
関係ないピンゼル様も、物見遊山的についてきている。
「すみません、今日はこちらを貸して頂いて… 」
リリーが恐縮しながら騎士達に挨拶をすると、
「いえいえ! 先日は、うちの騎士に手厚く寄り添って頂いて、ありがとうございました!
あまり綺麗な所ではありませんが、お好きにご使用下さい!」
皆、良い笑顔で場所を譲ってくれた。
しばらくすると王女が到着した。
これまた、見たことのない服を着ている。
ビキニにパンツスタイルという出で立ちだった。
昨日は夜で、あまりしっかり見られなかったのもあるが、改めて見ると、王女達は肌の色も、身につけている服も、リリーやピンゼル様とはだいぶ違う。
黒人さん程ではないけど、健康的な小麦色の肌に、比較的露出度の高い服で、ドレスというより、布感があるというか…
そう。前の世界で言う所の、エジプト、アラビア系の、"エキゾチック"美少女、な感じが表現としてしっくりくる。
実は、クルール王国とラピス公国は、これまで国交がなかったとは言え、緯度がほとんど同じなので、気候は似たりよったりなのだ。
だから、着ている服の厚みとか好きな食べ物の傾向は、近いものがある。
パレット王国はかなり緯度が低緯度なので、基本的に一年中気温が高く、亜熱帯から、場所によっては熱帯の地域があるらしい。
そのため、わりと露出度の高い、汗をかいてもすぐ洗いやすい服が多いのだそうだ。
そんなこんなで、彼らは特に恥ずかしがる様子でもなくお腹を出している。
模擬剣を使うとは言え、肌が丸出しでは危ないので、王国の服を貸し出すことにした。
「リリーさん、お忙しいのに、すみません。
今日は宜しくお願い致します」
アングール王女が丸くて黒い瞳をキラキラさせて元気に礼をされ、練習が始まった。
エールトベール王女は、どうみても渋々だ。
いきなり剣技は始めず、準備運動としてのストレッチから開始する。
アングール王女の身体は予想以上に柔らかく、リリーと比較できるくらい股関節も脊椎も柔らかい様であった。
筋力を見れば、とても武術を修めたとは思えないかよわい筋出力だったが、動体視力がかなり良いことが分かる。
実践練習を初めてまだ20分くらいだが、身体は追いつくし、何より剣線を目で追えている。
1時間経つ頃には、かなりリリーと打ちあえるようになっていた。
「飲み込みがだいぶ早いですね。 センスが良いというか…」
リリーが褒めると、
「私達が嗜む武術は剣を使いませんが、お互いに技を出し合って受け手と攻め手でいなし合う所が似ているからでしょうか」
と、アングール王女ははにかんだ。
エールトベール王女はあまり興味が無いのか、空や鳥に注意を飛ばしている。
リリーは休憩の時、
「せっかくですから、私にも武術を見せて下さいよ!」
だいぶ打ち解けてきたので、お願いしてみた。
リリーがパレット王国の武術が見てみたい、やってみたいとしきりにアピールしていたら、剣技を教える代わりに、武術の組み手をみせてくれることになった。
アングール王女とエールトベール王女の組み手を披露して頂いたが、これは前の世界で言う所の、空手に近いものだった。
流れるような攻撃と受け手が、リズムよく繰り返される。
そしてだんだん速さも速くなった。
なるほど。これは、動体視力や受け身が上手になるわけだ。
リリーも見様見真似で組み手をしてみる。
先程剣で打ち合いをした時も、今のように組み手を行う時も、何だかアングール王女とは妙に息が合うというか打ちやすいというか… とにかくリリーは不思議な感覚に陥った。
アングール王女も同じ気持ちなのか、
楽しそうに組み手を行っている。
そして、そろそろ剣技の練習に戻ろうかと話している時に、
「リリー、練習は進んでいるかな?」
リリー父が、訓練場に現れた。




