166.誕生日パーティ⑤
リリーも座ってケーキを少し取り分けて貰っていると、前回の晩餐会(お別れ会)にいた子どもが、リリーに殺陣を見せてと膝の周りに集まってきた。
最初は、今日は人数もいないし、そういうアレじゃないからと断っていたが、隣の王子は『別に構わないよ』という顔で面白そうに見ているし、子ども達がキラキラした瞳で見上げてくるので、ケーキを諦め、フォークを置いてため息と共に立上がった。
さすがに、ゴテゴテしたドレスでは機敏に動けないので、ジニアを伴って一度退席し、今回の滞在のために公爵家から持ってきていた服に着替える。
そして、別室で待機していたジェイバーを呼び寄せ、再びホールに足を踏み入れた。
「あっ! 魔王だー!!」
「魔王だ!!」
「勇者様だ〜〜!」
ジェイバーとリリーを見るなり子ども達は叫びだす。
―――ジェイバーの目から、再度光が消えた。
前回の晩餐会に参加していない人達は、どういう意味だと訝しげに2人を見つめる。
だけど、結構参加者や知っている人も多かったので、隣やら周りから事情を聞いて理解したようだった。
余興の延長線の雰囲気だし、まだ皆ケーキバイキングを楽しんでいる最中だったから、リリーは殺気立った殺陣ではなく、まずは音楽に合わせた演舞"剣舞"を行うことにした。
ケーキを食べながら、軽い気持ちで楽しんで貰えるように。
剣に口づけ、祈りを捧げるお辞儀を深々としてから、つま先でくるくると周り、軽やかに跳ね始めた。
剣を上へ放り投げて前方倒立してまた剣を受取り、水平に凪いでスカートを翻す。
高く飛んで空中で回り、足を垂直に掲げて回転する。
剣はどのように飛ばしても、必ずリリーの手に吸い込まれる。
優雅で、しかも勇ましい舞は、見る者を圧倒した。
結局皆、ケーキを楽しむよりも、あんぐりと開けた口でリリーを見つめてしまい、食べる手は止まっていた。
一度来賓席に向かって礼をした後、ジェイバーとの模擬試合を行った。
ジェイバーは演技を嫌うので、殺陣というより模擬試合の方が受け入れが良いためだ。
高速で剣を打ち合う高い金属音が響く。
いつも打ち合っているので、次の動きがお互いに予想しやすく、ジェイバーとの打ち合いは、卓球で言う所のフォア打ちな感じだ。何なら永遠にできそうな気がする。
その様子を、熱い瞳で見つめていたのは、意外にもアングール王女だった。
エールトベール王女も、瞳がこぼれ落ちるんじゃないかというほど目を見開いてしっかり見ていた。
王子の誕生日パーティは、婚約者の美しい歌声と、ケーキバイキングなる珍しい催し、飛び入りによる謎のダンス(?)パフォーマンスが大変盛り上がり、皆の記憶に残る楽しい日になったようだった。
ただ…
.....まさか翌日、王女達がぜひ剣を習いたいと申し出、剣を教える事とになるとは…
この時、まだリリーは知らなかった。




