162.誕生日パーティ①
これまでのパーティや晩餐会は、基本、王族席に王様や王子達がいて、リリーは父やジェイバーのエスコートで入場することが多かったが、今回は違うらしい。
今、リリーはホール手前の大きな扉の前で、エルム王子に手を引かれている。
今日正式に、婚約者だと発表されるそうだ。
リリーはとにかく憂鬱だった。
嫌だなぁ、、
入った瞬間に、たくさんの令嬢や偉い人から睨まれるんだろうな…
お前なんかが!とか言われたり?
陰口をめっちゃ叩かれてる現場に居合わせたり?
あらゆる悪い想像で頭をぐちゃぐちゃにしていると、王子が握る手の力を強くした。
?と思って顔を上げると、
「僕の送ったドレス、よく似合ってるよ。
リリーの瞳は水色だから、僕の瞳の緑色の服も、よく映えて、綺麗だ」
エルム王子がにこにこしながら褒め始めた。
あ〜なるほど!それで何かと、私のドレスって緑色系統が多いんだ。
リリーは今更、王子の瞳の色に合わせてドレスが仕立て上げられたことを知った。
「リリーは絶対、会場の誰より綺麗だから、緊張しなくて大丈夫だよ」
背中に置いたあった手で、王子の方に引き寄せる。
別に、緊張していたわけじゃないけど、王子の体温がほんのり伝わって、ささくれだった心は、少し和らいだ気がした。
「エルム王子様、並びに、婚約者であられるディアマン公爵家令嬢、リリー様」
扉が開かれ、名前を呼ばれる。
暗い廊下に、ホールの明るい照明が一気に差し込み、まばゆいばかりだ。
光に溶け込むように進み、王子と一礼する。
顔を上げると、会場中の参加者が、一様に笑顔で手を精一杯叩いており、拍手喝采で迎えられていた。
「エルム王子、万歳!!」
「お誕生日おめでとうございます!!」
「リリー様、ご婚約おめでとうございます!!」
「大陸一の花嫁様だ!!」
リリーの予想に反して、懸念していた悪顔の貴族や令嬢は見当たらず、とにかく歓迎ムードだった。
リリーが歩く度に、ドレスに散りばめられたダイヤモンドがキラキラ輝き、ヴェールが揺れる。
また、リリーは次期王子妃であるのにツンとせず、むしろ伏し目がちで歩く姿が儚げに見えるようで、周囲は感嘆のため息をつきながら惜しみない拍手を送り、道を開けた。
リリーは病弱であったが王子妃となるために、女性でありながら鍛錬を重ね、ダンスや歌唱だけでなく剣技まで極めたこと、護衛の騎士が毒ヘビに噛まれた際は、献身的に解毒に努め、自らの馬車に乗せ、膝枕までして癒やしたことは、なぜかもう国中が知っていることだった。
(騎士たちがやや誇張して撒き散らしたため)
実は、リリーとの婚約はこれまで何かと反対する者がいたが、ピンゼル様来訪後のアレコレが知られてから、風向きが変わったらしい。
元々、身分や容姿は申し分なく、懸念材料だった身体の弱さを努力で乗りきった根性と愛の力、隣国のとんでもワガママ公子を手懐けて更生させる調教力、また、最近王国に新しい娯楽(アクション演劇)を開花させた功績により、クルール王国貴族一同は満場一致で婚約者だと認めたらしいのだ。
所々語弊があるのだが、とりあえずいじめられなさそうで良かった。
席について顔を上げると、向かい側の席で、わかりやすく驚愕しているのは、昨日顔を合わせたエールトベール王女だった。
『オ前ガ王子ノ婚約者ダッテ!?』という顔をしている。
その隣にいらっしゃる、おなじく黒髪黒目のスレンダーな令嬢が、多分、姉君のアングール王女なのだろう。
こちらは、特に驚く様子もなく、にこやかに皆に合わせて手を叩いている。
その表情は優しげで、顔やパーツの色こそ同じだが、あのエールトベール王女とはだいぶ違う雰囲気に見えた。




