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158.後日談③

公爵邸では、別邸ではできなかったトレーニングを再開し、なまりきった身体を再び鍛えあげた。


特に、床の連続技はしばらくしていなかったので、調子を完全に取り戻すのに時間がかかった。


合間に歌唱の練習や、アズール先生から言われている自主トレを行い、喉のコンディショニングもバッチリ行う。



慣れない環境にいたせいか、気づかない間に痩せていたリリーは、少しずつ再び元の体型に戻っていった。

久しぶりに帰ってきたリリーに、ベイジルが好物ばかり用意したからだ。





パーティまであと10日となった時、ジニアが玄関から飛んできた。



「お嬢様〜!! エルム王子様から贈り物です!」


リリーが見に行くと、大きな箱から小さな箱まで、花束までついた贈り物が、エントランスに山と積まれていた。



1番大きな箱には、ドレスが入っていた。

煌めくオーロラのような不思議な生地を重ねた、淡いエメラルドグリーンのドレスだ。

スカートに、スパンコールのようにキラキラ散りばめられているのは、ダイヤだ。

1粒1粒が、一般的な婚約指輪のダイヤモンドの4倍ぐらいのサイズがある。

金糸で裾に小さく薔薇が刺繍してあり、上品でありながら幼さも残して可愛いデザインだった。

パニエにあたる白いレースは、多分この前ラピス公国から頂いたもので、繊細で薄く、幾重にも重ねられたことで、まるで庭園に咲くラナンキュラスのようだ。



ドレスに合わせた手袋も、髪飾りも、靴も、いったいいくらぐらいお金をかけているか分からないくらいの品々だった。



「素敵ですねぇ〜…」

ジニアとカシアはうっとりと見つめている。


「うへー。さすが王子。いくらぐらいするんだろ」

マリーはむしろ呆れ顔だ。


「お嬢様の美しさを、丁度引き立ててくれますな」

ロータスもたいがいだ。


(ジェイバーは相変わらず無表情かつ無言だ)



リリーは、『もし、この先何らの事情で夜逃げすることになったら、とりあえずこのドレスだけは抱えて逃げることにしよう…』と思った。



公爵邸の日々は、久々にマルグリット先生の授業を受けたり、ダンスレッスンで色々忘れていたことがバレ、先生に叱られたりと、忙しく過ぎていく。



この前の晩餐会は歓迎会だったからダンスタイムはなかったが、今回は王子の誕生日パーティなので、ダンスタイムは確定なのだ。


多分、現婚約者(一応)であるリリーは、衆人環視の中、王子とファーストダンスを踊るはずだ。


公爵家の面子にかけても失敗はできない。


リリーはステップをすっかり忘れ果ててはいたが、そこは持ち前の運動神経のお陰で、数日で持ち直した。



重たいドレスを着ても、まるでただのワンピースで踊っているように軽やかなステップが踏めるようになった頃、王城から迎えの馬車が来た。



「お嬢様、もう行かれるんですか。 また王都ばかり… 

今度帰ってこられたら、しばらくは公爵邸で過ごして下さいね! 」


「もちろんよ。王子の誕生日パーティが終わったら、次は私の誕生日会を宜しくね!

果物がたくさん乗ったケーキを楽しみにしているわ!」



膨れっ面のマリーや、カシアとロータスとの別れを惜しみつつ、今回もジニアとジェイバーを伴って王城へ向かうことにした。





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