150.魔王降臨③
「誰が貴方みたいなバケモノのお嫁さんになどなるものですか!
絶対に、勇者様が助けにきてくれます!」
元気な令嬢が檻の中からそう叫び、ぷいっとそっぽを向く。
「元気なのは良いが、口が悪いのは頂けんな。
他の娘の中から選ぶか…」
魔王が低く呟き、他の囚われの令嬢A〜Cに視線を投げる。
「「「ヒィッ!」」」
恐怖と不安に身体を強張らせた3名は、寄り添って震えている。
令嬢のうち2名は、8〜10歳の子役にした。
観客の子ども達と年が近い方が、感情移入しやすいと思ったのだ。
そこへ、
「みつけたぞ!! 彼女達を放せ!!」
秘密組織のウェイターA〜Cが飛び込んできた。
すると、魔王の横に跪いていたザリガニ怪人が立ち上がり、
「懲りない人間ガニね。まーたやられに来たガニか」
馬鹿にした顔をして挑発する。
「こ、今回はさっきのように行かないぞ。
ほら見てみろ、剣を持ってきたんだからな!」
強気のウェイター達は、剣を天井に突き上げて光らせる。
「「「いざ、ヤーーーー!!!」」」
束になって一斉にザリガニ怪人に斬りかかる。
「なに!? だがしかし、私の爪には敵わないガニよ!
それ!!」
ザリガニ怪人の爪と、ウェイターの剣がぶつかる音がし、激しい戦いが繰り広げられる。
だが、多勢に無勢なのか、ザリガニ怪人は、
「ウムム… 無念… 」 バタッ
と案外あっさりと倒れ、ドムッと、煙と共に姿を消した。
なんとウェイター達は勝利したのだ。
囚われの令嬢と子ども達は手を叩いて喜び、子ども達は誰ともなく、よく見えるように舞台の近くに集まって座り始めた。
気を良くしたウェイター達は、
「次は魔王だ。 覚悟!!」
と、椅子に座る魔王に剣を振り上げた。
キンッ キンキンッ ガキッ キンッ
魔王はなんと、つまらなそうな顔をして、椅子の肘置きに左手は頬杖をついたま、右手の魔剣で3人からの斬撃を全て受け止め、斬り返している。
キンッ カッ キンッ カンッ
誰も魔王の身体に、傷ひとつつけることはできない。
最後に、魔王が大きく剣を振ると、
「「「「わぁぁぁ」」」」
3人の剣は弾き飛ばされてしまった。
そこに、ウェイターDが応援を呼んで連れてきた。
「ここか、変態魔王のいる城は」
どこの貴族のボンボンかという、かぼちゃパンツな令息達が次々に斬りかかったが、瞬殺で返り討ちにされてしまう。
剣を失って丸腰になったウェイター&ボンボン貴族ズは、
「くっ…!
やはり、我々では魔王には勝てないようだ。
王子に相談して、勇者を探してもらわねば」
と言い、舞台袖に消えていった。
劇団の皆に、剣術を教えるヒマはなかったので、とりあえずジェイバーに向かって縦横無尽に剣をひたすら振り下ろすように伝えていた。
ジェイバーなら、複数人の素人の太刀筋くらい顔を動かさなくても分かるし、斬り返しで怪我をさせることもない。
頃合いを見計らって剣は弾き飛ばすから、緩く握っておいて欲しいとだけ伝えていた。
見事に予定通りの殺陣シーンとなった。
舞台は暗転し、ウェイター達とボンボン貴族ズが、晩餐会のホールに戻ってきて、王子に事のあらましを報告した。
「王子様、魔王の居城の場所は突き止めましたが、かなり手強く、7人がかりでも倒すことができませんでした。
この国に伝わる伝説の勇者様を、探す必要があります」
ウェイターAがエルム王子にそう言うと、
「フム分かった。勇者を探そうではないか。
この中に、腕に覚えのある者はいないか」
エルム王子が、会場を見回して問いかけた。
まるで、"機内に、お医者様はいませんか?"というような雰囲気で。




