149.魔王降臨②
ライトが、檻を柔らかく照らし出した。
檻の中では、先程の令嬢を含め、少女達がしくしくと泣いている。
「怖いよ…」
「お家に帰りたい…」
「ここはどこなの」
悲しみに暮れる少女の中に、
「怪物! 悪魔! お前達なんか、勇者様が来たら、コテンパンの、けちょんけちょんなんですからね!」
元気に息巻く令嬢がいた。
「ムハムハムハ
勇者なんて、所詮は人間。魔王様の敵ではないわ」
ザリガニ怪人は一笑に付した。
ちなみに、ウェイターも令嬢も、劇団アルビレオのメンバーだ。
ザリガニ怪人はアズール先生、元気な令嬢はヴィオラさんだった。
今日はリリー監修のアクション満載な舞台を実現すべく、何日も前から準備をし、その集大成の日だった。
今の所は順調そうだ。
舞台袖からちらりとホールを見れば、手をギュッと握って舞台を見つめている子ども達が見えた。
ピンゼル様も、趣旨を理解されたようで、ご機嫌に劇を楽しんでいるようだ。
やはり、前みたいに暴れ回らない。
それに今日は、他の子ども達も、誰ひとり暴れていないのだ。
皆、劇の行方を見守っている。
トゥシュカ様も、静かに事の成り行きを眺めていた。
ライトが、檻から、豪華な1人掛けソファに切り替わる。
そこには魔王が足を組んで座っていた。
魔王は均整のとれた身体に長い足、気怠げな雰囲気を纏っている。
「グフフフフ…
元気の良い娘は嫌いではない。
お前、俺の嫁にしてやろうか」
「!!!」
トゥシュカ様は、魔王の声を聞いた瞬間、テーブルに置いていた手で口をパッと覆い、声を出さないようにした。
頭から角を生やし、黒光りする装束にマント。
精気のないうつろな瞳が、逆に恐ろしさを際立たせている。
トゥシュカ様が驚いたのは、魔王として舞台に立っているのが、本来、絶対に『グフフフフ』などと言わない、
ジェイバーだったからだ。




