148.魔王降臨①
「キャーーーッ 助けて〜〜〜!!」
パッとライトが光り、会場最奥の、扉前を照らす。
そこには、どこかの席の可愛いご令嬢を、ゴテゴテした怪物(ザリガニ怪人)が掴まえ、抱き抱えていた。
「ムハムハムハムハムハ!
この姫は、魔王様のお嫁さんにするんだガニ!!
連れて帰るガニ!!」
怪人が不気味な笑い声を響かせる。
「なんだって!? やめろ!!」
ホールに立っていたウェイター達が、一斉に駆け寄って飛びかかるが、
ザリガニ怪人が大きな爪を振り回すと、
「「「「うわぁぁぁあ!!」」」」
全員宙を舞い、跳ね飛ばされてしまう。
倒れたウェイター達は、ぴくりとも動かない。
「ムフフフフフ!
人間とは、何と弱きものか。
それでは、この姫は頂いていくガニよ!!」
「嫌よ!!誰か、助けて〜!」
ご令嬢の悲鳴も虚しく、バサッとマントを翻し、ザリガニ怪人は会場から走り去っていった。
突然始まった奇怪な出来事に、ほとんどポカン顔の貴族達だったが、子どもらは、
「お姫様、さらわれちゃった…」
「悪い奴に、連れ去られちゃった…」
「大丈夫かなぁ」
「誰か助けてあげなきゃ…」
口々に心配し、事の成り行きを見守っている。
すると、先程倒れていたウェイターAが、ずるずると身体を起こし、壁にもたれかかると、
「とうとうこの街にも、怪人が現れたか…」
と額に手を当ててため息混じりに言う。
「はい。僕らが睨んでいた通りでしたね」
ウェイターBも起き上がる。
「最近、悪魔が住む魔界の王が、自分の嫁を決めるために、いろんな街から可愛い姫や令嬢を、攫っていく事件が続いているんだ。
だから僕は、今日はもしかしたらこの晩餐会に奴が現れるかもしれないと思い、ウェイターに扮して様子を窺っていたんだが…
ついに恐れていた事態が、起きてしまった」
膝を拳で叩いた。
「魔王に立ち向かうには、どうしたら良いのですか?」
ウェイターCが聞く。
「我々のようなレベルでは、先程のように、手下の怪人にすら敵わない。
伝説の勇者様さえいて下されば…
いや、まずは奴らの後を追おう!
居場所をつきとめるんだ。
行くぞ!」
ウェイターA、B、C、Dは立ち上がると、怪人が消えたドアから、会場外へ走り去った。
騒ぎが落ち着いて、皆が前に向き直った。
気がつくと、晩餐会のホールの壇上には、巨大な檻と、豪華なソファや調度品が揃えられた部屋のセットが現れていた。




