14.SIDE父(ローレンス)
リリーが元気になった!
元気に歩いて笑って、ちょっと走れている!
肉も食べ、食事が美味しいという。
顔色は以前の何倍も良く、熱も出していないらしい。
神様!!!
俺は神様なんて絶対いないと思っていたが、今日ばかりは神様の存在を信じて良いと思った。
軍部で働く親父について王宮で働いていた頃、救護室に勤めていたビアンカと出会った。
ビアンカは美人で誰にでも優しく、皆のマドンナ的存在だった。
ただ少し身体が弱く、疲れが溜まると熱を出しやすかった。
自分がこんなだから、身体が辛い人の気持ちがよく分かるのと言って、そんな体調を抱えてなお献身的に傷ついた騎士の看護にあたっていた。
その心の強さに惹かれて自分が求婚し、結ばれたのだ。
帰れば彼女が出迎えてくれることが嬉しくて幸せだった。
息子も産まれて更に賑やかになり、日々を大切に大切に過ごしていたが、リリーの出産後に出血が止まらず、ようやく持ち直したがそれからも床に伏しがちになり、とうとう天に昇ってしまった。
彼女が命がけで生んだ女の子は、乳母を呼んで育てることにした。
その子も、というかよく熱を出した。
小さい体が燃えるように熱く、泣くこともできずにぐったりする姿を目にするたび、何もできない無力感に苛まれた。
また喪ってしまうのではないかと怖くなり、大切にすればするほど失う衝撃が大きいことを知っていた。
そんな時、突然国境を超えて隣国が攻めてきた。
ディアマン領は国境に接しているため、真っ先に衝突することになった。
その頃俺は半ば自暴自棄になっていて、これ以上大切なものを目の前で失うくらいなら自分が先に死にたいとさえ思っていたから、最前線で戦った。
妻を失った喪失感、自身の無力感、苛立ち、リリーを失うかもしれない不安、そんなものを胸にたぎらせて無我夢中で戦い、気がついたら敵の首領を討ち取っていた。
もともと一方的に隣国が侵攻してきて始まった戦争であったため、王家は隣国から莫大な賠償金を得ることになった。
早期に首領を落としたお陰でお互いの兵の損害も少なかったこともあり、俺は王家に呼ばれ、褒賞を与えられることになった。
望みの褒美を王に問われたが、特に欲しいものは思い浮かばない。
ただ、ふと思った。
リリーは生まれつき身体が弱く、もしかしたら長く生きられないかもしれない。
しかし王家に入れば、国内最高の医師がついているし、万一の際には一般貴族には手に入らない薬草や治療を受けられるかもしれない。
「娘のリリーを、王子の婚約者にして頂けないでしょうか」
身分としてもリリーは公爵令嬢であり釣り合いも問題ない。
こうしてリリーは第一王子の婚約者になった。
俺は軍務大臣を任命され、兵軍をまとめて王宮で忙しく働いた。
家に帰ればいつも熱を出して苦しそうにしている娘を見るのが辛くなり、リリーを乳母やメイドに任せて王宮近くの別邸に帰ることが増えた。
こんな責任逃れみたいなことをして父親失格だとは分かっていたが、辛そうな娘から目を逸らし、失う恐怖からこれ以上大切な存在にならないようにした。
それでもリリーは10歳に育ち、そろそろ身体も丈夫になったかと思えば、2週間前から高熱を出し、1週間意識がないという連絡を受けた。
食事もとれず、かろうじて水分だけは与えているが、今度こそもう命が危ないかもしれないとのことだった。
そんな知らせを受けても、結局怖くて見舞いに行けなかった。忙しく仕事をすることで紛らわせ、自分に言い訳をしていた。
その後意識は戻り、少しずつ元気になっていることを報告から知っていたが、今更どんな顔をして見舞いに行けば良いのか分からず、誕生日まで顔を合わせず終いだった。
誕生日には毎年本邸に帰っていたが、去年も一昨年もリリーはベッドの上だった。熱っぽい身体は冷たい果物と少しの野菜しか受け付けず、肉は一口大に切った薄切り肉でも噛み切ることができない様子だった。
今年も、熱は下がったとはいえ同じような状態だろうと思っていた。
そうしたら、去年までとは全然違う!
理由はわからないが、明らかに元気になっている!
しかも、もっと元気になって外に出たいからと、体育館なるものが欲しいと言い出した。
こんな嬉しい願い事を叶えるために、自分の財力はあるとさえ思えた。
神様ありがとう!!
よし! すぐ建てよう!
無関心でなく、ただのヘタレだったパパでした




