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136.スコーグの森②

森を散策して気づいたのは、ピンゼル様がとても植物に詳しいということだった。


しかも、食べる、食べられないがハッキリしている。



「これは、ユキノシタ。油と相性が良いから、衣をつけて揚げると美味しいらしいよ」


「これは、ヤマゴボウ。ブドウみたいで美味しそうだけど、毒があるから食べられない。

でも、別名インクベリーと呼ばれて、実は熟すと黒紫色になる。

これも染料になるんだよ」


「これはホクリ。シュンランとも言って、食べられる花だ。

生でも食べられるから、サラダや料理を飾るのに適しているんだって」




まるで歩く植物図鑑だ。

リリーは素直に感心しながら、これは? これは? と、手当たり次第に聞いてはほほぅと唸った。


リリーの問いに答える度、ジニアに頭を撫でられて嬉しそうにしている。


ピンゼル様は喜々として葉を裏返したり、根を掘ってみたり、匂いを嗅いでみたりして、本から得た知識と、実際の様子を擦り合わせているようだった。



リリーのイメージするピクニックとは少し違って、どちらかというと登山〜探検に近い感じではあったが、ピンゼル様がとても楽しそうなので、そのまま見守ることにした。




一行は目的の花を探しつつ川のそばをぼちぼち歩いて移動するが、瑞々しい自然と森に親しみキャッキャしている少年少女達の周りを、笑顔ひとつない険しい表情の近衛騎士が囲んでいるのは何ともシュールな光景だった。



「あっ!! リリー!あったよ!」



ピンゼル様の指差す先に、スペード型の葉、太めの茎に小さな花のついた、アカネカズラが群生していた。



「たくさんあるねー!!」


ピンゼル様は駆け寄ると、つぶさに観察を始める。

時季がもう終わりなのか、枯れている蔓があり、イノシシや鹿が掘り起こしたようで、根が露出している部分があった。


たくさんの葉が傘となり、雨露がかからなかったらしい根は、乾燥して細くなっている。

今掘ったばかりの根は淡い褐色だが、転がっている乾燥した根は赤紫色だった。



ピンゼル様は大事そうにどちらの根とも鞄に入れ、他にもいくつか掘り起こして鞄に詰めていた。

リリーも負けじと、なるべく大きいサイズの根を探して引き抜き、ジェイバーに渡した。



目的を果たして尚も川沿いに進むと、急に木々が途切れて光が差し、視界が開けた。



目の前には立派な滝があり、湖面がしぶきを上げている。



「わぁ、綺麗ですねー!」

ジニアがそう言うと、


「スコーグの森はこの滝が有名で、昔、龍がこの滝を登って天に上がったという伝説から、この水は万病に効くと言われているんだよ」


やっと出番の来たエルム王子が教えてくれる。



ほう…


それなら一口飲んでおきますかな。


リリーは現在元気だが、こういうパワースポットの言い伝えは信じてみるのがポリシーだ。

さらに、身体に良さそうなので、一応父様へのお土産にすべく瓶に詰めた。




時間も丁度お昼時になり、皆で昼食をとることになった。



ピンゼル様が用意していたバスケットの中身は、サンドイッチだった。

魚のフライにキャロットラペとレタスが挟まっているものと、ローストビーフとレタスが挟まったものだった。

さすが、王城シェフのサンドイッチは豪華だ…



用意の良いことに、ピンゼル様は小さな小鍋と自国の茶葉も持ってきていた。

河原の石で即席コンロを作って、真ん中にいらなくなった紙を入れて火をともし、小枝に火を移す。

火が安定したら鍋に滝の水を入れて沸かし、その湯でジニアが紅茶を淹れてくれた。



外で、しかも神水で淹れた紅茶はとても美味しく感じられた。



そう…

ピクニックどころか登山や探検からもだいぶ離れて、もはやキャンプの様相だった。


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