135.スコーグの森①
スコーグの森は、王都からは西に1時間半ほど馬車で揺られた所にある。
馬車の両脇を、近衛騎士隊が挟んで馬を駆っている。
馬車から外を覗くと、騎士隊の厳しい顔と目が合うので、景色を楽しむことはできなかった。
何か、デジャブ…
「これ、すっっっごい良いねぇ!!」
しかしピンゼル様は、最近で一番の笑顔を振り撒き、椅子の上のクッションをすりすりしている。
「えへへ…」
これは以前、歌の理解のための弾丸観光でリリーが初めての馬車旅に尻をやられて辛かった際、北の街で買ってきて貰ったクッション… を、更にジニアが改良した座布団だ。
馬車の座席サイズに作られたオリジナル座布団は、硬すぎず柔らかすぎず、悪路で馬車が跳ねてもかなり緩衝してくれる優れものだった。
リリー不在の3日間、公爵別邸で特にすることがなかったジニアは、北の街から持ち帰っていたクッションを参考に、色んな布や綿を組み合わせて、リリーのための馬車用座布団を作り上げたのだ。
今日のお出かけが遠出かもしれないと、念のため持参し、馬車に設えた所、大ヒットとなった。
勿論リリーも喜んだが、最も関心を持って褒め称えたのはピンゼル様だった。
こんなに褒められたことはないと言うくらい褒められ、嬉しいジニアはピンゼル様とだいぶ打ち解け、尻が痛くない快適な道中は、とても和やかに過ぎていった。
「ところで、スコーグの森でピンゼル様が見たい花って何なのですか?」
ふとリリーが聞いてみた。
「アカネカズラだよ。
この花は、水の綺麗な川の傍に自生して黄白色の花を咲かせる蔦植物なんだけど、公国では見たことが無い。
でも、王国の西の森では普通に生えててよく知られているらしいんだ。
根は乾燥したら布の染色に使えるんだけど、花は黄白色なのに、根で染色したらとても綺麗な緋色になるんだって。
他にも、お酒に漬けたら飲めたりして色々使い道の多い植物だから、ぜひ採って持ち帰りたいな」
「へー!! 素敵でしょうね」
染色なら、リリーもいつかハルディン夫妻の工房で見せて貰った。
あの工房では淡い色のものが多かったから、鮮やかな緋色に染まる根をお土産に持って行ったら、喜ばれそうだ。
杏色の布を頂いたお礼がしたかったし、丁度良いかも。
「私もぜひ採らせて貰うわ! 楽しみね」
リリーもウキウキしながら森へ到着するのを待った。
スコーグの森は、京都の竹林的な森よりは、屋久島寄りの森だった。
何となくジブリ的な雰囲気があって、マイナスイオンをばりばり感じるタイプだ。
馬車から降りる前に、近衛騎士が周辺を捜索し、不審者がいないことを確認する。
周りには、人は勿論、動物もおらず、静まり返っていた。
しばらくしてようやく馬車から降りる許可を得た。
「リリー様、足元にお気をつけ下さい」
昨日の雨で足元が滑りやすくなっているため、ジェイバーに手を引かれながら森の中を進む。
「ジニアは僕が手を握っといてあげる」
ピンゼル様は、ジニアをエスコートしているつもりで逆に手を引いて貰っている感じだったが、ジニアが幸せそうなので良し。
そういえば、ジニアは下に兄弟の多い家系だった。
ひとり、リリーに手を差し出そうとしてジェイバーに先を越されたエルム王子は、開いた指をぐーぱーぐーぱーして空を見上げた。




