134.本気の護衛
「リリ〜〜〜! おはよう!!」
王城に着くなり、ばふっとピンゼル様がリリーに抱きつく。
「おはようございます、ピンゼル様」
リリーはピンゼル様の額から髪を優しく払いながら挨拶を返した。
「この人は?」
隣に気づいたピンゼル様に聞かれ、
「ジニアは私の侍女です。
今日は一緒にお出かけを楽しみたくて連れてきました。
仲良くして下さいね」
リリーが言えば、
「うん! 僕はピンゼル・マティータです!
こちらこそよろしくねぇ」
ちゃんと自分から自己紹介ができた。
ジニアは、公爵邸で聞いていた様子(主にリリー父から)から、どんなワガママ公子かと身構えていたが、その猫っぽい容姿と愛らしさに早くも胸を撃ち抜かれたようだった。
ジニアも挨拶をしてから許可を得て柔らかい髪を撫でると、
はわわわわ… と萌え震えている。
遅れて、エルム王子が出てきた。
「おはよう、リリー。
今日はトゥシュカ様は視察の続きに向かわれるそうだから、同行はされないことになった。
このメンバーで出掛けよう」
リリーは何となくホッとして、
「分かりました。
それで、お出かけ先は決まりましたの?
許可は頂けました?」
と聞いた。
「あのねあのね、僕、本で"ピクニック"って読んだことがあるんだけど、行ったことがないから、ピクニックに行ってみたいんだよね。
今日はもう、ピクニックに持って行くランチをバスケットに入れてあるし、敷物も用意したんだ!」
そういえば、トゥシュカ様が、家族でお出かけや旅行の経験が無いって言ってたな。
ピクニックなら街中でもないし、山賊以外の悪漢はそうは居なさそうだから、通行や滞在許可は下りやすかっただろうと思った。
(山賊程度なら私でも倒せそうだし安心だわ)
「ピンゼル様が、この時期に珍しい花が咲く、スコーグの森に興味を示されたから、今日はそこに向かうことにしている。
もちろん、昨日のうちに許可はとったよ。
護衛も、今回は絶対大丈夫だ」
なるほどやはり。 自信アリなのね。
とりあえずリリーは了解して、笑顔全開のピンゼル様と今日の目的地への行程を地図で確認していると、
「リリー嬢」
聞き覚えのある呼称で声がかかった。
振り返れば、凛々しい騎士服に身を包んだシエル様と、お兄様らしき人、つまりシエル様と同じ白銀色の髪を完璧に整えた、騎士団の隊長様が立っていた。
その後ろに並んだ方々も確認し、シエル様に視線を戻す。
シエル様のお兄様って、騎士団の中でも近衛騎士の方じゃなかったっけ??
近衛騎士は、王国では基本的に王様と王妃様を護る任についている。
あるいは、王太子になれば次期王として護衛対象に入るのだが、エルム王子は下に弟がいて、今はまだどちらが次期王だとはっきり指名されていないから、現在王太子は不在なのだ。
なのに、どう見ても今日の護衛は近衛騎士団、しかもシエル様のお兄様は隊長だ。
今回の護衛は、思っていたより本気のようだ…
リリーは気軽なはずのピクニックが、大袈裟な大名行列になるだろう予感を、ひしひしと感じていた。
「リリー嬢、あの晩餐会の夜ぶりだね。
また会えて嬉しいよ。」
シエル様はニッと口の端を上げて笑うと、
「今日はリリー嬢の護衛は、私の役目と仰せつかった。
先日のように危ない目には遭わせないから、安心して外出を楽しんで欲しい」
と言った。
リリーは女性ながらに近衛騎士であるシエル様にウットリしながら、いつか手合わせ願いたいなぁなんて考えていた。




